産経の“反ユダヤデマ書籍”広告事件、人種差別への理解不足…海外メディア批判

 反ユダヤ主義と受け取られる広告掲載を巡り、アメリカにあるユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」から抗議文が送付されたことを受け、産経新聞が謝罪した。海外メディアは、日本社会ならではの事件として報じている。

◆日本人著者によるユダヤ陰謀説
 問題となったのは、11月26日付の産経新聞東海・北陸版に掲載された3冊の本についての宣伝広告。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、本は「ユダヤ人にコントロールされたアメリカによる陰謀」についてのもので、AFPは、本の著者はリチャード・コシミズという自称ジャーナリスト兼活動家で、日本ではほとんど知られていない存在と紹介している。

 コシミズ氏は1冊目の本で、2011年の東日本大震災は、「ユダヤの独裁国家」アメリカが、日本経済を破壊しドルを防衛するため、海中深くで原爆を爆発させ、意図的に引き起こしたと主張。2冊目では、ホロコーストはイスラエル建国のため企てられたでたらめと説き、3冊目で、2012年の安倍政権の選挙は、世界を支配するためのユダヤ人の計画の一部であったと記しているという(WSJ、AFP)。

◆社長も全面謝罪
 この広告が掲載された新聞は、わずか5000部しか発行されなかったが(AFP)、サイモン・ウィーゼンタールセンターのエイブラハム・クーパー副所長から抗議の手紙が産経新聞の熊坂社長宛に届いた。

 おわび記事の中で熊坂社長は「広告審査手続きに欠陥があったことは明らか」としたうえで、「こうした内容の広告が掲載され、読者の手元に届けられてしまったことは極めて遺憾。読者とユダヤコミュニティーの皆様に深くおわびいたします」とコメントし、「産経新聞社はナチス・ドイツによるホロコーストを許しがたい憎むべき犯罪ととらえております」と自社の見解を述べた。

◆日本のナショナリズムに関係?
 WSJは産経新聞について、慰安婦記事を撤回した朝日新聞のようなリベラルな新聞にも、攻撃を行っていると言及。

 また、今回の事件に絡め、WSJは、安倍首相が学校での愛国主義と自国の歴史のより国家主義的解釈を打ち出している今、日本においては、民族的少数派へのヘイトスピーチ増加の恐れがあると述べる。

 AFPは、人種的に均質な日本では、大きなユダヤ人コミュニティはなく、ほとんどが仏教と神道の混ざり合ったものを信仰しているとし、日本人の反ユダヤ主義やその背景に関する理解の乏しさが、今回の事件に繋がったことを示唆している。

Text by NewSphere 編集部