日本の“聖域”コメ作りにイオン参入へ 農家の葛藤に海外メディア注目
農業の担い手の高齢化と、企業のコメ生産への参入、そしてTPP交渉で揺れる日本のコメ農業。海外のメディアが、分岐点に立たされる、日本の農業の”聖域”とも言えるコメ生産の現場を詳しく報じている。
◆高齢化する日本の農業の担い手
10月18日付のワシントン・ポストでは、経済活性化のための「アベノミクス」の1つとして導入された「国家戦略特別区域」のうち、農業生産の改革の試験地として指定された兵庫県養父市の農業を取り上げている。
日本の農業人口がそうであるように、養父市の農業の担い手も高齢化が進む一方で、若い世代は、新たな仕事を求めて地元を離れている。
養父市でも、町の人口が減り続け、50年で半分となったうえ、典型的な農家の年齢は、70.7歳となっている(ワシントン・ポスト)。
◆日本人のコメへの信奉
日本でのコメの生産は、長らく家族中心の小規模な農家によってなされてきた。その背景には、コメへの信奉があるとAFPは分析している。
AFPは、コメが日本の歴史の中で、富や権力の象徴であったりしたこと、また神道や相撲の儀式で重要な意味を持つことを紹介しつつ、そういったコメへの思いが、何世代にも渡って土地を守り続け、コメを育て続けた農家の厚い保護へとなっていると指摘。
ワシントン・ポストも、そのことが778パーセントもの関税となっていると述べている。
その政府による手厚い保護の下に、変革を阻んでいるのが強力な圧力団体である日本農業協同組合だとワシントン・ポストは指摘。
アメリカ主導のTPP交渉に対して断固として反対を示し、TPP交渉が妥結された場合に必然となってくる農業改革へ猛烈に反対していると、AFPとワシントン・ポストが伝えている。
◆企業によるコメ生産への参入
しかし、変化の波はすでに押し寄せている。10月13日付のブルームバーグが、スーパー最大手のイオンが、国内最大のコメ生産会社になることを伝えつつ、企業によるコメ生産への参入を詳しくリポートしている。
イオンの子会社であるイオンアグリ創造は来年、埼玉県で地元農家から水田11ヘクタールを借りコメ生産を開始する予定。2020年までに100ヘクタールを借り上げることを目指している(ブルームバーグ)。
イオンの広報担当者、一海徳士氏によれば「日本の農家が高齢化し引退が進む中、子会社を通じて生産を引き継ぐことができる」とのことである(ブルームバーグ)。
また、コンビニエンスストア運営のローソンとセブン&アイ・ホールディングスも農地と若者の農業訓練に投資している(ブルームバーグ)。
ワシントン・ポストは、養父市の農家の言葉で記事を締めくくっている。「この地域にやってくる人たちが、本当に農業に真剣ならいいんだ」「しかし、農業企業が利益を得るためだけに来るのなら、彼らは自分たちの地域をより良くしようとするのには関心はない」