依存症、治安悪化…カジノのリスクをどう防ぐ? ギャンブル教育が重要と専門家主張

 2020年、戦後日本で初めて、合法的なカジノができるかもしれない。過去、合法化が検討されながら、様々な問題のため実現できなかったカジノ。経済効果が強調される一方、依存症や治安などのリスクがつきまとう。対策について、日本で数少ないカジノ専門家の木曽崇氏に聞いた。

◆リスクは?
 カジノ導入に伴う社会的なリスクは、大きく3つあげられる。ギャンブル依存症、犯罪、青少年への悪影響だ。

 大前提として、こうしたリスクを最小化するためには、カジノのロケーション選定が最重要になるという。例えば、周囲に住宅街、教育・福祉機関があるところなどは、社会的コストが高くなるので避けるべきだ。観光面ではアクセスの良さが重要だが、社会的コストとのバランスを考えることが必要だ。

 例えばシンガポールも、あまり人が住んでいない地域を選び、カジノを含むIR施設を建設したという。

1.依存症
 最も代表的なリスクが、「ギャンブル依存症」だろう。これは、薬物やアルコールへの依存症とは異なり、身体への影響はほぼないものの、経済・社会環境(家族や職場)に破壊的影響を及ぼしてしまう。

 バリバリ働いてきたおじいさんが定年退職後、やることがない状況で、ふとしたきっかけでギャンブルにのめりこんでいく…などの例は枚挙にいとまがないという。

 基本的に依存症とは、心の穴を埋めるため、特定の物事に対して強度に頼ってしまう状態を指す。ギャンブル、アルコール、買い物…依存症の対象は様々にあるが、「原因」は患者の環境など、別のところにある。根本の原因が解決しない限り、依存症患者は減らないといえる。

 なお世界各国の成人におけるギャンブル依存症の発症率は1~2%だ。対して日本では、平均5.6%と非常に高い(厚労省調査)。ただし、これは定性的な調査結果に基づくものであり、文化・社会的背景の違いが考慮されていないという批判もある。

2.犯罪
 賭博に対しては、反社会的組織の関与という負のイメージが付きまとう。カジノについても同様であり、残念ながらそうした歴史もある。
 
 ただし現在は、諸外国ではカジノ事業者等に対し、厳格な調査を前提としてライセンス制度を導入している。日本においても法制化にあたり、この点は徹底されるだろう。

 また地域の治安が悪化するのでは、という懸念もあるだろう。これについては、カジノに限らず、「観光振興」に伴い必然的に発生するリスクだという。つまり、犯罪件数が増えるリスクを前提として、どう対策するか、を検討する必要がある。居住人口に加え、観光客数も見込んで、治安対策の予算を編成できるかが、カジノ誘致を考える自治体の課題といえる。

3.青少年への悪影響
 青少年自身の賭博参加に対しては、入場時のIDチェックを徹底することが効果的だ。諸外国でも導入されており、法制化にあたって盛り込まれる可能性は高いという。またIDチェックは依存症対策としても機能する。

 むしろ、青少年への教育的配慮に関しての議論が重要だ。日本では、賭博は「勤労の美風を損なう」として禁止されているが、競馬など公営賭博や、類似する遊技であるパチンコなどが、身近に存在する。しかし、タバコ・酒と異なり、賭博に関して学校教育で学ぶ機会はない。木曽氏は、カジノ是非論とは別に、「賭博に関するリスク教育の必修化」を主張している。

◆今後のシナリオは?
 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の推進法案は、臨時国会で審議中だ。「見送りか」「成立か」など様々な報道が飛び交う中、日本人への規制に関する議論は棚上げ、先送りされる可能性が高まってきた。一部の党から、ギャンブル依存症や犯罪などに強い懸念が示されているためだという。

 木曽氏の話を踏まえると、リスクを踏まえて議論を尽くし進めていく、というIR推進派議員の姿勢は適切だといえる。

 NewSphere読者の皆様にとっても、是非を冷静に考えるうえで、本シリーズ記事が参考になれば幸いだ。

※参考書籍
日本版カジノのすべて(木曽崇)

Text by NewSphere 編集部