日本の「ハグしてくれる椅子」、海外から思わぬ批判 介護・癒やしに対する価値観に温度差

 先日開催された国際福祉機器展2014(東京ビッグサイト:10月1~3日)に出品された介護用品の中で、日本企業が多くの「人形」を取り入れていることが、海外メディアに注目されている。特に話題になっているのが、ユニチェアの「やすらぎチェア」や「生活リズム人形」、産業技術総合研究所のアザラシ型ロボット「パロ」などだ。

 人形が孤独を抱える高齢者に癒しを与えるとして肯定的な意見がある一方で、血の通っていない物に癒しを求めるなんて虚しすぎるという否定的な意見も挙がっている。

【注目の人形たち】
 最も注目を浴びているのが、ユニケアの抱擁椅子「やすらぎチェア」だ。実際の人間よりも大きい布製の人形が背もたれに組み込まれたデザインで、長く大きな腕が座っている人を後ろから抱きしめることで安心感を与える設計となっている。

 また、同社の「生活リズム人形」は、食事や就寝、薬を飲む時間などを設定することで、音声で知らせることができる。

 産業技術総合研究所のセラピー用アザラシ型ロボット「パロ」も楽しみや安らぎを与えることで精神的なセラピー効果を謳っている。

 いずれも年代を問わず使用することができるが、特に高齢者向けに開発・販売されている。

【制約のある状況では合理的】
 これらの人形(ロボット)型介護用品が開発された日本では、人口の1/4が65歳以上であり、今後もその比率は高まっていく。高齢者向けに人形を活用するアイディアは海外では奇妙なイメージが拭いきれないようだが、高齢者人口が増加している日本でこのような開発が進んでいること自体は無理もない、という意見もあるようだ。

 生きたペットを飼いたいが住居環境的に無理な場合もある。また、実際に生き物のペットは噛んだり引っ掻く可能性があるほか、食事・排泄などの世話が必須だ。対して、ロボットはその必要がない点がメリット、と英テレグラフなどは報じている。

【高齢者の存在の価値を見直すべき】
 一方で、人々の生活を支えるためにセラピー製品が開発されることには賛成だが、やすらぎチェアは気持ち悪い、と情報サイト『Complex.com』などは断言している。

 英ガーディアン紙も、血が通っていない人形を相手にしていても、安らぎどころか、自分には友人や家族がいないことを切実に感じるだけだと否定的だ。

 また同紙では、日本の問題として、若い世代が高齢者をメインストリームから外れた存在として扱っており、人形を与えることで様々な問題が解決できる無能な生き物と見なしている、と批判している。開発者は気味の悪い開発をするのではなく、高齢者の見舞いに足繁く通ったり、彼らが若い世代と同じように健やかに生活ができるよう、金銭的な補償や、生き生きとした交流が実現できる環境づくりをするべきだと指摘している。

 読者からも、疑問を投げかけるようなコメントがあがっている。

・子供の唯一の安らぎが人形であれば不安になるのと同様に、老人にとってもそうあるべきでない。こういった製品は高齢者にとって生身の人間との交流が不要という認識につながりそうで怖い

・様々な経験をし、知恵を蓄えてきた高齢者に対して幼稚な扱いをする必要があるのか?

・人形の膝の上で余生を過ごす環境づくりではなく、金銭的、時間的に余裕があり創造性と愛情に満ちた状況で高齢者をサポートする環境づくりが必要だ

 要介護者のケアに、ロボットなどの介護機器を活用することは否定されるものではない。ただ、生身の人間やペットとの触れ合いこそが真の安らぎを与える、という海外紙・読者の論調は、宗教・イデオロギーをベースにしていると思われる。日本との温度差は、簡単には縮まりそうもない。

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Text by NewSphere 編集部