豪メディア、日本の住宅文化に学ぶべきと報道 狭くても空間の感覚がユニークと評価
自動販売機がやけに多い。街にゴミ箱がほとんどない。そんな日本人にとって何でもないことが海外からは斬新に見られることはよくあるが、どうやら、「郊外の狭小住宅」もそのひとつであるらしい。人口密集地に住む日本人にとってはまったく何の感慨もない光景の、いったいどこが目新しいのだろうか。
【第3の住まい】
東京は、人口密度が高い割に低層住宅が多い。オーストラリア・フィナンシャル・レビューによると、これは世界でも特筆すべきことだという。
渋谷や新宿など都心部は高層ビルが多いが、ひとたび郊外に出れば低層住宅が密集して並ぶ。このような郊外型狭小住宅に注目した写真集『Tokyo Houses 東京の家』が、フランス人フォトグラファー、ジェレミ・ステラ氏により出版された。同書によると、狭い土地に作られた家は「ご近所とのつながりを完全に断つことなく、かつプライベートな空間を確保できる設計」となっているのが特徴で、東京独自のものだという。
都市部の人口が過密化するオーストラリアにとって、東京の狭小住宅は参考になるだろう、と同メディアは述べる。東京の家は、人口過密イコール高層住宅とは限らないことを証明している。超高層住宅か、あるいは街を離れた場所で延々と続く平たい家か、の二択しかなかったオーストラリア人にとって、歓迎すべき第3の選択肢と言えるだろう、と同メディアは伝えている。
【”曖昧”の美意識】
もうひとつ、日本建築独自のコンセプトとして海外が注目しているのが「曖昧さ」だという。
建築家の手塚貴晴氏は「欧米の建築家は時折、内と外の中間となるスペースを持つことの重要性を言うけれど、日本人にとっては、すべてが”中間”なのです」とAPに語っている。同氏が設計を手がけた東京都立川市の「ふじ幼稚園」は、ドーナツ型の園舎が中庭を囲み、その屋上はすべて遊び場になっているという非常にユニークな構造だ。園舎、屋上、中庭、そしてそこに立つ樹木、そのすべてがつながっているというイメージである。
「自然と人造の融合は、とても日本人的なものです。日本庭園は、自然美を愛でつつ、とても精細に手を入れます。このふたつの考えを、行ったり来たりするのが日本式なのです」と手塚氏は述べる。
京都の伝統的な家の再生を手がけるアメリカ人建築家のジェフリー・ムーサス氏は、日本の「曖昧」は文化の心、とフィナンシャル・タイムズ紙に語っている。同氏は日本建築の魅力に惹かれ、かつて日本の大工の元で3年間弟子として修行までしたという。
「曖昧は、日本の建築独自のコンセプトで、抽象的なもの。とても心惹かれる」とムーサス氏は述べている。
【古い建物が少ない日本】
ムーサス氏が手がけたリノベーション物件は既に30にのぼるが、顧客の90%は駐日外国人だという。これは、日本独自の建物に対する考え方が原因だとフィナンシャル・タイムズ紙は述べる。多くの国において、歴史的建造物は価値が高くなるものだ。しかし日本では逆で、物件の購入者はだいたい壊して建て直す。これは主に、地震と津波が多い立地から、「建物は永遠ではない」という考えが根付いているためだという。
また、建築家の郡裕美氏は、「年配世代に取って古い建物がかつての不幸な時代を想起させるのも一因」と同紙に語っている。「戦中の苦しい経験や、封建的な古い家のしきたりなど辛い記憶を今なお抱える世代にとって、単純に伝統を愛でることは難しい」と同氏は言う。
一方、若い世代の知識は乏しい。郡氏が生徒に「縁側に座ったことがあるか」と聞いてみても、テレビで見たことしかない、という回答がほとんどだという。
今後、日本の住宅を再評価されることがあるならば、それは海外からの視点なのだろうか。「郊外は狭くて低い家が密集」、「土地には価値があるは建物にはない」、「若い世代は伝統家屋を知らない」、どれも日本人にとっては当たり前のことばかりだが、あるいは日本の建築事情が逆輸入式に評価されることで、再び価値が上がることに期待したい。