英ジャーナリスト、南京大虐殺「30万人犠牲」を否定 日本人翻訳者の加筆疑惑と合わせて海外紙注目

 英国人ジャーナリスト、ヘンリー・スコット・ストークス氏は、その著作の日本語訳で同氏の意図を歪めたとして、日本人翻訳者を非難した。本では、南京大虐殺は無かったと書かれているが、同氏は、そのような発言はしておらず、翻訳者による意図的な加筆だと主張した。

 問題となっているのは、同氏の著作『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』だ。2013年12月に発売以来、10万部以上売れている。

【著者の意図とは異なる内容に改変か】
 ストークス氏は、パーキンソン病を患っており、手で文字を書くことやキーボードを叩くことができない。そのため、本の原稿制作は、170時間以上に及ぶ声の録音で行われたという。このインタビューの翻訳をしたのが、藤田裕行氏だった。同氏は、南京大虐殺や従軍慰安婦強制動員を否定する右翼団体「史実を世界に発信する会」の会員でもある。

 藤田氏によると、出版にあたりストークス氏と祥伝社が話し合いの上、本の内容の変更は必要ないと決定したという。「ヘンリーさんの考えやこれまでの彼のベストセラーとなった本で共通する示唆は、実際に南京で何が起こったのか理解するため、南京大虐殺という表現は使うべきでないということだ」(タイム誌)と同氏は話している。

【保守派的思想の本を売る手法】
 ストークス氏は現在75歳、これまでニューヨーク・タイムズ紙やフィナンシャル・タイムズ紙の東京支局長を務めた。

 テンプル大学のジェフリー・キングストン教授(アジア研究学・史学)は、出版者にとって、ストークス氏の名声は、本を売るために魅力的だ、と説明している。「出版社自身が決して得ることがない信頼を彼は既に獲得していた。世間がこの出版社は異端の右翼だと関心を示さない一方で、ヘンリー・スコット・ストークス氏は著者としての豊富な実績があった」(タイム誌)

 また、上智大学のスヴェン・サーラ准教授(日本近現代史)は、「この手の本の出版はいつでも行われているし、一定の読者がいて常に2、3万部は売れる。しかし、歴史修正主義的思想は、まだ社会の大多数とはなっていない。そのような見方は、日本のエリート、特に政治家などに深く根を下ろしているが、それぞれの考えには隔たりがある」(タイム誌)と指摘している。

【一転、自身の非難を否定する発言】
 中国の主張する30万人の被害者というのは誇張だというストークス氏の意見に変わりはないようだ。ただ、事件が起きたこと自体を完全に否定するのは、「右翼による政治的宣伝にほかならない」と話したことを海外紙は報じている。

 ところが9日、同氏は発言を一転させた。祥伝社とストークス氏は、加筆騒動について二者間の意見の不一致はないと共同の声明を出したのだ。同氏の当初の非難を否定する内容だ。「著者の言い分は、いわゆる南京大虐殺は完全な事実ではないということだ。虐殺という言葉は、実際に起きた事件を示す正しい表現ではない」(タイム誌)

 また先月の共同通信社のインタビューでは、ストークス氏は、南京で「残酷な出来事」が起きたが、それを意味する適切な日本語がないとも話したという。

 共同通信社によると、藤田氏は加筆の事実を認めているという。しかし、指摘されている他の部分の加筆については否定しており、録音した著者のインタビュー音源の公開も拒否している、とサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙は報じている。

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Text by NewSphere 編集部