『美味しんぼ』描写に自治体が猛抗議 “フィクションなのに…”影響力の大きさに海外紙驚き

 漫画『美味しんぼ』の“被曝描写”をめぐる論争が止みそうもない。主人公が福島第1原子力発電所を訪問した後に原因不明の鼻血を流す場面が、「風評被害を招く」と批判される中、5月12日発売号に掲載された続編で、その原因が「被曝したからですよ」というセリフで断定された。

 さらに、震災がれき受け入れ先の大阪市でも健康被害が出ていることを示唆する描写など、新たな論争の種も加わった。

 これを受け、地元双葉町に続いて、福島県や大阪市も同日、発行元の小学館に抗議文を送った。一部の海外メディアも、この“MANGA”に端を発した「フクシマの真実」を巡る論争に注目し、詳しく報じている。

【抗議のさなかに発表された内容は・・・】
 問題の発端となった「鼻血描写」は、週刊漫画誌『ビッグコミックスピリッツ』の4月28日発売号に掲載された。劇中に実名で登場した井戸川克隆・前双葉町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と発言。同時に、福島の放射線と鼻血を関連づける医学的見地はないという医師のセリフも描かれた。

 これに対し、双葉町が今月7日に「福島県民への差別を助長させる」などとする抗議文を小学館に送付。続いて環境省も「放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません」と公式に見解を発表した。

 こうしたさなかに発表された最新エピソードは、鼻血などの健康被害と福島第1原発の放射線をさらに強く関連づける内容となっている。引き続き劇中に登場した井戸川前町長は、主人公・山岡士郎の鼻血と倦怠感について「被ばくしたからですよ」と断定したうえで、「今の福島に住んではいけないと言いたい」と発言。

 さらに、震災のがれきを受け入れた大阪市でも、市民から健康被害を訴える声が多数あった、という登場人物たちの会話も掲載された。

【WSJは“フクシマのタブー”と『美味しんぼ』の影響力の強さに着目】
 ウォールストリート・ジャーナル紙は、こうした経緯を紹介したうえで、「3年後にはほとんどの放射性物質の半減期が過ぎる。また、これまでの除染作業によって、放射線のレベルは国内の他地域と同レベルまで下がった」とする地元自治体の見解を記している。

 また、福島県の担当者は同紙の電話取材に対し、「私たちは全ての米をチェックするなど(福島県産農産物の)安全性に対する誤解を解くために多大な努力を重ねてきた」と答え、『美味しんぼ』の描写は「そうした努力を傷つけるものだ」と批判したという。

 同紙はこうした地元の声を受け、放射線の危険性について見解をオープンにすることは、原発事故後の福島では一種のタブーになっていると論じる。また、フィクションに過ぎない漫画の描写がここまで大きな問題になっているのは、30年以上続く『美味しんぼ』の強い影響力を示すとみている。

【原作者の意図に一定の理解も】
 『美味しんぼ』の“福島編”は次の19日発売号で完結する。小学館は、その号で識者の見解や批判的な意見を集約した特集記事を組むとしている。一方、原作者の雁屋哲さんは、自身の公式ブログの4日付エントリーで、完結編では「もっとはっきりとしたことを言っているので、鼻血ごときで騒いでいる人たちは発狂するかも知れない」などと予告している。

 ゲーム関連ニュースサイト『Kotaku』は、上記の発言をとりあげた。さらに、雁屋さんが情報サイト『日豪プレス』のインタビューで、自身が福島訪問後に鼻血と倦怠感に苦しんだ経験を語り、「(福島の)放射線レベルは低く、危険はないとされているが、私はそれには疑問だ」と発言したことに注目。そのうえで、「雁屋氏は、人々が婉曲話法と偽りのポジティブな言葉で真実をオブラートに包んでいることに強く反発し、そのスタンスを守り続けている」と記し、漫画に込められた意図に一定の理解を示している。

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Text by NewSphere 編集部