坂茂氏が「建築のノーベル賞」受賞 「紙の建築」に世界の被災地から感謝の声

「建築のノーベル賞」とされるプリツカー賞を、坂茂(ばんしげる)氏が受賞した。同氏は、安価な材料を再利用し、災害に遭った地域に低価格の住宅を建てたことで、国際的な評価を得ている。紙の筒で建物を作る彼の技術は、自然災害だけでなく、人災による被災者のシェルターとして、ルワンダやインド、日本でも利用された。

 選考員は受賞の理由として、「社会が必要とする建築を作るという責任感と積極的な行動、独創的な発想による人道援助が合わさった、模範的な建築家」だとしている。

【世界各地での人道的活動が高評価】
 1995年の神戸・淡路大震災、1999年トルコ地震、2001年インドの地震でも、坂茂氏は迅速に動き、被災地にダンボールでできたログハウスを建てた。2004年のスリランカの津波災害後には、瓦礫やココナツチーク材などを用いて建物を造った。2008年には、中国四川省の地震被害があった地域でも活動した。

 2011年には、東日本大震災の復興支援にあたった。さらに、ニュージーランド地震で損壊したクライストチャーチの大聖堂建設にも、無償で協力したという。建設に使われた表面を加工したダンボールは、少なくとも50年の耐久性があると報じられる。イギリスの建築雑誌アーキテクツ・ジャーナル(AJ)は、一時的なものとして建てられた大聖堂だが、クライストチャーチ再生の象徴として今後も在り続けるだろう、と報じている。

 同賞を主宰するハイアット財団のトム・プリツカー会長は、「災害救援活動は、人道的な行いとして、他の模範となるものだ」「革新的精神は、どのような建物に取り組むかを限定しないし、人を思いやる心は、予算に縛られない。茂は我々の世界をより良い場所に変えてきた」とコメントしている(FastCo Design)。

【真に「環境にやさしい建築」とは】
 坂茂氏は、紙筒、ビール箱、貨物用コンテナなどを使い、明確で高潔なデザインを作り出す、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は評している。「紙の建築」は、1986年、東京で同氏が「アルヴァ・アールト展」の会場構成に紙を用いたことから始まったようだ。その後、技術を発展させ、より大きな建物に応用していったという。

「紙の建築」は、安価で廃材が出ない。『FastCo Design』によると、坂氏は、エコな建築は今やファッションとなっているが、再生可能な建築は多くが商業的な戦略としてあると述べた。そのため、その建物が本当に再生可能なのか、見せかけに過ぎないのかの判別は重要視されていない、と現代の風潮を批判したという。

【外国に日本を学んだ】
 坂氏は、安価な材料を用い、職人技を駆使し自然光を利用した建築をデザインする。これが、日本デザインの伝統だと言ってしまうのは容易い。しかし彼は、建築についてはアメリカで学んだのが始まりだ、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。

 彼は、「日本建築の影響は、リチャード・ノイトラ、ルドルフ・シンドラーから受けた。カリフォルニアのケース・スタディ・ハウスを見学に行き、建物の内と外の関係を学んだ」と話したという。また、アルヴァ・アールト(フィンランド人建築家)の素材の用い方、環境の空気を深く理解した建築手法にも学んだ、と同紙は解説している。

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Text by NewSphere 編集部