作業員が汚染水浴びる事故も…福島の過酷な労働状況を米紙が告発 東電は「回答する立場にない」

「フクシマでマンパワーの危機」-。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、16日付で福島第一原子力発電所の現場作業の実態を伝えるルポを掲載した。記事は、下請け、孫請けと何層にも複雑化している雇用形態や、素人同然ともいうべき作業員の質などを問題視し、東京電力や国の「無責任体質」を暴いている。

【フクシマで働くのは未経験の失業者やホームレス】
 東日本大震災から3年が過ぎた今、福島第一原発には、経験豊富な作業員はほとんど残っていないという。過酷な労働環境に耐えかねて辞めたり、年間被曝線量が上限に達したためだ。

 労働環境の悪化、賃金の低下から人が集まらなくなり、現場を取り仕切る請負業者は人員確保に四苦八苦しているという。募集要項には「社会常識と会話能力が必要です」程度のことしか書かれておらず、元作業員の証言でも経歴は不問だったという。

 そのため、作業員の多くは失業者やホームレスなどで、二次災害の発生が懸念されると同紙は報じる。実際、汚染水の貯水タンクのオーバーフロー事故など、「人災」とみられる実例が挙げられている。東電はこれら事故について、作業員の経験など問題の核心に迫る質問にはことごとく回答を拒否したという。

【作業員募集には暴力団も関与】
 同紙は、こうした問題の根幹は、複雑な雇用形態にあるとみる。作業員の募集を含む現場の仕事は、東電の委託を受けた請負業者が、さらに下請けや孫請けの業者に分配する形で行われている。そのため、東電は誰が実際に現場の仕事を仕切っているのか、具体的に何がどのように行われているのか、まったく把握していないというのだ。元作業員の一人は「現場でほとんど東電の社員を見たことはない」と、記事中で証言している。

 ロイターが昨年報じたように、ヤクザが作業員の調達に関わっていることも問題視されている。英メール・オンラインは昨年12月、50におよぶヤクザが1050人の労働者を抱えているという警察の見積もりを紹介している。

【東電「回答する立場にない」】
 ノルマ達成のために仕事が雑になっているという例も報告されている。4人の子を持つ沖縄出身の作業員は、一日1万5000円で汚染水の貯蔵タンクを作る仕事に従事。本来は晴天下で行うべきタンクの継ぎ目をパッキンで埋める作業を、雨や雪の日にも急がされた。

「案の定、後にパッキンが剥がれて漏水の原因になった」と、この作業員は証言する。「何度も上司に作業の欠陥を指摘したが、聞き入れられなかった」。

 東電は、こうしたリスクが高い作業に見合うよう、賃金を上げる約束をしたという。しかし、現場の作業員たちの反応はあきらめムードだ。「間にいくつもある業者がピンハネするに決まっている。自分たちの分はほとんど残らない」。

 東電は、作業員が直面するこれらの過酷な現実について、NYTの質問に対し、「回答する立場にない」と文書でそっけなく伝えてきたという。

 こうした実態を告発するNYTの報道を、中国人民日報傘下のグローバル・タイムズ紙や、シンガポールのトゥデイオンライン、ニュースサイト『Salon』などが報じている。

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Text by NewSphere 編集部