「福島の長期避難は必要か?」 原発反対派から転向した米映画監督、作品のメッセージとは
反原発活動家から転向した人たちによる生の声を伝えるドキュメンタリー映画「パンドラの約束」が、今年1月に米国のサンダンス映画祭で上映され注目を集めた。日本エネルギー会議によると、75%が原子力反対者であった観客のうち、映画終了時には80%が原子力の支持者となったという。
豪メディア「The Interpreter」によると、本作は感情に訴えかけるイメージを効果的に活用し、風力や太陽光など再生可能エネルギーと比べ、原子力がクリーンで比較的安全であることを実証する内容だ。
自身も反原発から転向したロバート・ストーン監督は、「観客にこの映画を通して私と同じ発見の旅をしてほしい」「特に解決志向の若者にアピールするだろう」と語っている。
12月3日からiTunesで世界に発信される予定だ。
【監督の転向の道のり】
ロバート・ストーン監督は、もともとは反原発派の環境主義者として知られていた。初監督作は、反核兵器を主張した「ラジオ・ビキニ」で、1988年のアカデミー賞候補となった。しかし2009年に環境保全を題材とした「アースデイズ」の製作過程で、原発に対する考えが変わったという。
監督は、環境保護活動の人類滅亡説を否定し、「未来を語りたい」との思いで本作を製作したという。今必要なのは、人類が地球温暖化問題に直面する中、原子力に対する懸念を1つずつ検証することだと訴える。
【福島への問題提起】
本作の製作過程で監督は、チェルノブイリ、福島第1原発近郊の避難地域、高自然放射線地域として有名なブラジルの海岸ガラパリなどに足を運んだという。それらの場所と他の地域を比較し、放射性物質による人体への影響は大差ないと主張する。
さらに、福島第1原発近郊で長期間の住民避難が必要かという問題提起もしている。チェルノブイリを考察したところ、放射能による健康への影響より、避難や社会混乱による精神的な負担のほうが健康被害をもたらすと指摘。偏った報道や、原発ゼロという極論に警鐘を鳴らしている。
【見た人の評価は?】
「The Interpreter」はさらに、焦点はもっぱら北大西洋の先進国であり、新興国のインドや中国の現状を取り上げていないと指摘した。
その一方で、核議論の大きな問題は提唱者が平易な言葉で利益と危険について説明できないことだったが、その点で本作は最初のよい試みだと論じている。
ザ・インターネット・ムービー・データベース(IMDb)のレビュー欄には、「環境に興味があるなら見る価値はある」「原発推進派も反対派も考えさせられるすばらしい作品」との称賛のコメントがある一方、「原子力産業の広告に過ぎず、全く説得力がない」という原発反対派の意見も寄せられている。