村上春樹には政治性が足りない? 海外メディアがノーベル文学賞とれない理由を分析

 ノーベル賞受賞者の発表が7日から始まる。まずは生理学・医学賞の発表、10日か17日には文学賞の発表が予定されている。

 英国のブックメーカー(賭け屋)のラドブロークスによると、文学賞受賞者として最も人気が高いのが、村上春樹氏だ。賭け率は3倍。2番人気は、米国の作家ジョイス・キャロル・オーツ氏で、6倍である(どちらも日本時間7日19時現在)。

 村上氏は、ポストモダン文学の旗手として有名で、作品は現在、数十の外国語に翻訳・出版されている。作品の評価は高く、日本国内外に熱心な支持者がいる。

 同氏は既に、エルサレム賞、 フランツ・カフカ賞を受賞している。

【常に人気の高い作家】
 村上氏の作品は、売上が減少している出版業界で、常に好調な売れ行きを維持している稀有な存在だ、とウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。最近では、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が4月に出版され、最初の1ヶ月間で、100万部以上売れたという。英語版は、2014年に書店に並ぶ予定だ。

 同紙によると、東京神保町の三省堂書店次長、松下恒夫氏は、4月の発売開始日には、いち早く新刊を手にしようという熱心な村上ファンのために、いつもより3時間早く開店したそうだ。同氏は、「村上氏の小説は、他の作家に比べ、大きな売上になります」「彼が3年から5年ぶりに新刊を出すと必ず大人気になるんです」と述べた。今年のノーベル賞受賞については、「受賞すれば、過去の作品への新たな関心を呼び起こすことになるでしょうね」と受賞を期待しているようだ。

【ノーベル賞を獲れない理由】
 村上氏は、これまで何度も候補に挙がったが、受賞を逃してきた。2012年にも、最も有力な候補者と見られたが、受賞したのは中国の莫言氏であった。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中央大学文学部の宇佐美毅教授による、過去の日本人文学賞受賞者(1968年受賞の川端康成氏や1994年受賞の大江健三郎氏)との比較を紹介している。

 同教授は、例えば大江氏の作品では、社会の中で少数派の人々の葛藤や原子力問題など、政治的・社会的問題が扱われるのに比べ、村上氏の作品はあまりそういう要素がみられない、と指摘している。このため、同氏の作品は強力なテーマや目的が欠けているとみられており、それがノーベル賞をいまだに受賞できない理由のひとつだろう、とみているようだ。

 実際、村上氏はこれまで、公の場に姿を現すことはあまりなく、政治的な発言もほとんどしてこなかった。しかし、2012年、日本と中国の領土問題に関する緊張の高まりを受け、朝日新聞に寄稿している。同氏はその中で、日本が中国と対立し国家主義の傾向を強めることは、安酒を飲むようなもので、酔が回るのは早いが、ひどい二日酔いになる、と冷静な対処を求める意見を述べた。

 また2009年には、エルサレム賞授賞式で、イスラエルによるパレスチナ人の扱いを非難した。

 評論家の一部は、これらはノーベル賞を意識しての政治的発言ではないか、と幾分皮肉な味方をしているようだ。

Text by NewSphere 編集部