海外が報じた日本(2013年1月)
1.サマリー
1月、海外各紙は日本の経済・外交政策に注目した記事を主に掲載した。特に経済政策に対する注目度は高く、安倍首相の「積極的な財政政策、日銀との連携を強化したうえでの金融政策、成長戦略」を詳しく報じている。また外交については、対中・対韓姿勢の変化について扱った記事がいくつか掲載されている。主要な記事は約60記事で、社説やコラムでも数回取り上げられた。総選挙があった12月に比べると若干少なくはなっている。
2.安倍内閣の経済政策
【緊急経済対策/補正予算案】
政府は8日、新設した「日本経済再生本部」(本部長・安倍晋三首相)の初会合を開催した。安倍首相は、今後の経済政策の方針を「3つの矢」と表現し、柔軟な財政政策、大胆な金融政策、経済成長戦略をテーマとして掲げた。具体的には、緊急経済対策として、復興・防災対策、成長による富の創出、暮らしの安心・地域活性化の3分野に注力する方針だ。15日には13.1兆円規模の補正予算案を閣議決定した。
まず、公共事業の大幅な拡大について、歳出の拡大に伴い、国債の不安定化が懸念されている。フィナンシャル・タイムズ紙は、過去自民党が行なってきたバラマキ政策の再現となることを懸念。ただ一方で、公共事業の拡大によって実際に2%程度の経済成長が見込めるとするエコノミストの分析も紹介している。
より構造的な課題への指摘も報じられている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、少子高齢化と人口減少が進む日本では、女性や高齢者の労働環境を向上させ、労働人口の増加を図るべきと論じている。さらに、OECD諸国の中でやや低い水準にある、労働生産性を向上することが重要とも指摘。雇用規制などの緩和を指摘した。
【甘利大臣の円安警戒発言】
甘利明経済財政・再生相は、「過度な円安は、輸入費用の増加を引き起こし、国民の生活に悪影響を与える可能性がある」と述べた。この発言の影響で円を買い戻す動きが広がったためか、日本円はドル、ユーロに対して上昇の動きをみせた。
甘利大臣の発言は、対ドルで79円台(11月中旬)から89円台へと急速に進む円安傾向を緩和させるねらいがあったとみられている。当初は、甘利大臣が現状を「過度な円安」ととらえている、という誤解もあったため、これまでの円安傾向が反発したようだが、こうした情報は既に修正されている。実際、甘利氏はTV番組のインタビューで、前政権に比べ円は適正な水準に調整されているという見解を示している。ただし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などは、同氏は100円/ドル程度を目安にしていることを示唆しているようだとも報じている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ここ数年の円高は日本の輸出企業の競争力を弱めてきたと指摘。苦しんできた企業は、昨今の円安を求める政府の姿勢を歓迎しており、市場も期待感から株高傾向にあるとみている。
一方で、円高の恩恵で安価であったエネルギーの輸入コスト上昇を懸念する声も、一部の経営者からあがっている。東芝の佐々木社長は、ほとんどの原発が運転停止となっていることから、輸入が増えている燃料の価格が高くなり、過度な円安は経済を衰弱させる恐れがあると述べた。同社長は、円安は日本の景気にとっては良いことだと述べたうえで、エネルギーと円安をうまく調整することが大切だと述べた。
【クルーグマン教授の評価】
ノーベル経済学賞受賞者である米プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、安倍首相の進める大胆な財政・金融政策について皮肉交じりに“評価”した。
近年の世界経済について、先進諸国はいずれも景気の低迷にもがきながら、不透明な先行きを恐れるあまり有効な対策が打ち出せず、ただただ質素倹約に励むしかなかったと指摘。ところが驚いたことに、「変化しない」ことで知られた日本が、他に一歩先んじて大胆な行動を起こしつつあると評価している。巨大な債務や人口の高齢化という悪条件を抱え、余裕のなさでは他国にひけを取らない日本だが、今のところ国債の評価を下げることもなく円安傾向が進むなど、市場の期待を膨らませていると評価した。ただし同氏は、安倍氏の外交政策のまずさに言及し、今回の緊急経済対策も古いタイプのバラマキ政治に近いという悲観的な見方も紹介している。意図はどうあれ行動は正しい、ともとれる皮肉な“評価”となった。
3.安倍内閣の外交・安全保障
安倍首相は、尖閣諸島領域において活発化する中国の動きに対する警戒・監視態勢を強化するため、前民主党政権が改定した「防衛計画の大網」を見直し、「中期防(中期防衛力整備計画)」を廃止する方針だ。現在の大綱は、陸上自衛官の定員減などが盛り込まれていたが、今後は予算を増額し、自衛隊の増員や早期警戒機・潜水艦など装備の向上、米国の新型輸送機オスプレイの安全性に関する研究などを行なっていくという。2013年度の防衛予算は4兆7700億円を要求し、これは11年ぶりの増額となる。なおニューヨーク・タイムズ紙によると、オスプレイは墜落事故の多発から国内配備に反対する声は根強いが、自衛隊のヘリコプターより航続距離や速度、積載量で優れているため、防衛に積極的に活用したい考えだと報じられている。
また、安倍氏はこうした安全保障戦略の見直しで、アジア地域における影響力の強化とともに、同盟国米国との関係強化を図っているとも報じられている。具体的には、ガーディアン紙は、日本が米国から無人高高度偵察機グローバル・ホークを購入する準備を進めていると報じた。2015年までに1〜3機の導入が計画されている。日本は昨年12月、中国の航空機が尖閣諸島付近の領空を侵犯したことをすぐには察知できなかったことから、監視能力の向上が必要とされているとも指摘した。
なお日本は10年以上にわたって防衛予算を削減してきたものの、2012年は4兆6500億円で世界6位だった。一方、中国は同年6,702億元(約8兆7000億円)で世界2位となっている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、東アジアの2大ライバルである日中間の緊張が高まる可能性もある動きだと懸念している。
4.その他
【海外紙が報じたボーイング機問題】
16日午前8時半、宇部発羽田行きの全日空NH692便ボーイング787型機(乗客129名・乗員8名)で機体トラブルが発生。同機は高松空港に緊急着陸、乗客乗員は非常用シュートで緊急脱出した。脱出の際に3人が軽傷を負った。
787型機はボーイング社の最新型機で、就航から15ヶ月が経過。従来機に比べ電力に多くを依存しており、燃費に優れる。現在までに50機が生産 されただけ(うち24機を全日空と日航が保有)であるが、同社では今後20年間で5000機の受注を見込み、現在の月産5機から年内に10機へと増産計画 を進めている。同型機が搭載するリチウムイオンバッテリーは、電気自動車やノートパソコンなどで火災発生例があり、航空機への搭載に関してはFAAによっ て条件を付けられていたが、同社は軽量で大容量、かつ急速充電が可能であり同機に最適として、野心的に採用したという。
なおニューヨーク・タイムズ紙は、問題のバッテリーを含め同型機には日本製の部品が多く、機の注文が遅延あるいはキャンセルされることになれば日本のメーカーにも影響が及ぶと指摘した。