海外が報じた日本 4つの主要ニュース(12月1日~12月7日)
1.サマリー
12月初め、日本の政治・経済についての主な記事は約40記事だった。4日に公示された衆院選に関する報道が多かった。経済政策や原発・エネルギー政策などが主な争点として報じられているが、各党の違いが明確でなく、日本の有権者は「選択肢がないと悩んでいるようだ」というような、批判的な報道も目立つ。
また笹子トンネル天井崩落事故については、日本の「安全」への定評からか、驚きをもって報じられていた。
2.衆院選情勢を海外紙はどう見る?
衆院選の投票日が14日に迫っている。以前は世論調査で自民党が民主党に大きな差をつけていたが、自民党の支持率は低下の兆しをみせ、両党の格差は狭まっていると報じられた。世論調査の結果を紹介したウォール・ストリート・ジャーナル紙は、次の首相にふさわしいのは誰かという質問で回答した1071人のうち、28%が自民党の安倍晋三総裁を、21%が野田首相を選び、安部総裁と野田首相との支持率の差もやや狭まっていることが明らかになったと報じた。
また、投票先を決めていない有権者が読売新聞の調査では36%、朝日新聞の調査では41%にのぼり、情勢の不透明さが浮き彫りになったと指摘している。
各政党の離合集散が続いて政策が二転三転しており、争点が分かりづらくなるとともに、選挙の結果が明らかになった後も、数カ月にわたって不安定な政情が続く可能性が高いと同紙は分析している。
3.“脱原発”が疑われる理由
福島第一原発の事故から2年が経とうとする中、未だに日本のエネルギー政策に光が見えてこないとフィナンシャル・タイムズ紙は報じた。野田政権は当初、「2030年までの脱原発」を唱えていたが、今回の選挙では「2030年代に原発ゼロ」という意向を示している。
ただ、各党の原発問題に対する主張の実現性や信憑性に対しては、疑問が多く存在すると海外メディアは指摘している。フィナンシャル・タイムズ紙は、日本国民は自身の原発に対する思いを託し票を投じていくことになると報じている。しかし、福島第一原発事故以来、「脱原発」を掲げてきた与党・民主党がその政策を曖昧にしてきた経緯もあり、衆院選に向けてヒートアップする各党が打ち出している原発政策には不確定な部分も多いとしている。どの政党が勝利をあげても、政治リーダーたちは国政と地方政治や安全規制機関との間に存在する複雑な論争に直面することになるだろうと予測されている。
また、電力の30%を原発に頼っていた日本にとっては大きな転換であり、代替エネルギーの確保が必要だ。フィナンシャル・タイムズ紙は、これを模索する日本企業にも注目。ソフトバンク社の孫正義社長が商業用太陽エネルギーステーションのネットワークの構築に着手していること、福島沖に世界最大の風力発電所を設置する計画があることにふれた。ただ、こちらについては漁業組合などとの衝突もあり順調には進んでいないとも指摘している。
4.日銀は変わるのか?
日銀の西村清彦副総裁はこの度、今後の状況やリスクに応じて適切だとみなされた場合は追加的な金融緩和を行なっていく方針を記者会見の場で明らかにした。また、年率1%のインフレ率を2013年末までに見通せない場合は、その後も資産買い入れプログラムを2014年まで続けていくとし、長期的な対策を行なっていく姿勢を示した。国内外から金融緩和への期待が寄せられる中、白川方明総裁が先月にその可能性を明確に否定したばかりだった。
16日の衆院選や来春の総裁交代が大きく影響する日銀の政策には、海外からも注目が高まっている。
【今後の金融政策】
注目される今後の政策について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、西村氏の発言は今後の追加緩和の可能性が高いことを予告しているとした上で、今月19、20日に日銀が行う政策決定会合でその決断を下すだろうと分析している。またブルームバーグは、衆院選で自民党が勝利し、金融緩和に積極的な人物が次期総裁に就任すれば、数ヶ月以内にデフレ脱却ができるとみている。
【日銀総裁人事】
金融政策は衆院選の主要争点にも挙がっており、その舵取りをすることになる次期総裁人事にも注目が集まっている。各紙はデフレ脱却を達成できなかった白川氏の業績を厳しく非難した上で、次期総裁の候補者たちについてまとめている。次期首相と目される安倍氏の下では、元参議院議員で経済学者の竹中平蔵氏、日本経済研究センター理事長の岩田一政氏、経済学者の岩田規久男氏、アジア開発銀行の黒田東彦氏などが挙げられる中、フィナンシャル・タイムズ紙は財務官僚の武藤敏郎氏が現在の経済状況に立ち向かっていく人物として最も適していると報じている。今後は、政策のマイナス作用にばかり囚われていた「白川流」から脱却し、大胆な「バーナンキ流」の総裁が求められているとした。
5.トンネル天井崩落事故
山梨県の中央自動車道上り線笹子トンネルで2日、天井崩落事故が起きた。東京側から1.7キロ地点で約130メートルにわたり天井のコンクリート板が崩落し、通行中の乗用車やトラックが下敷きとなり火災が発生した。死者は9名にのぼる。海外メディアも事故の恐ろしさや管理会社・中日本高速道路のずさんな実態について報道した。
【背景と課題】
フィナンシャル・タイムズ紙は、山脈の多い日本には長距離トンネルが数多くあり、今回事故が発生したのもその一つであるとした上で、難航する救助作業や中日本高速道路の事故対応について報じている。同社は9月、10月に点検をした際には問題がなかったため原因は不明だと述べているが、 天井板のつり金具の結合部分などの点検を目視だけで済ませ、工具で叩いて異常を調べる打音検査は実施していなかったことが明らかになっている。現在は業務上過失致死傷容疑で捜査を受けているが、ずさんな運営実態に対し不安や怒りの声が大きくなっていると報じられた。
なお、国土交通省によると、全国には約1万300本のトンネルがあり、そのうちの4800本が1982年以前に開通している。今回事故が起きた笹子トンネルも、1977年に開通したものだ。古いトンネルでは工法が旧式である上に老朽化も進んでおり、今後は同様の事故が繰り返されないよう点検作業の見直しの他、適切な老朽化対策が望まれる。
【見直される政府の監督責任】
政府はトンネル事故の主な要因として、老朽化とずさんな点検管理が挙げられていることから、同様の構造を持つ全国のトンネル49本に対して緊急点検を指示した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、藤村修官房長官が、インフラ設備に関して国民の不安が膨れ上がっている事に対し「大きな投資をして、永続性や継続性を担保していかなければならない」と述べ、維持管理のやり方を見直していく意向だと報じている。政府はこれまで、直轄でない高速道路の維持管理については各運営会社に委ねてきたが、今後は監督・予算の両面からの行政指導が必要になりそうだという。
【安全性、衆院選の争点へ?】
フィナンシャル・タイムズ紙は、今回の事故によって老朽するインフラ問題が衆院選の争点になりうると報じている。 衆院選で優勢とされる自民党の安倍晋三総裁は、国債発行による公共事業費の増額を「国土強靱(きょうじん)化」計画と名付け政権公約に組み込んでいる。一方、脱公共事業を掲げる民主党の野田佳彦首相は、この計画を新たなインフラ設備を増設していくだけのキレイ事だと批判し、財政面で慎重な姿勢を保ちつつも安全性の維持管理が必要だとしている。
日本で起きた今回の事故は、世界的にトップレベルのインフラ技術を誇るだけに海外からの注目度も高い。巨額債務を抱えながら、地震や厳しい気候に加え、老朽化という新たな試練に立ち向かう政府の姿勢が問われるところだ。