海外が報じた日本 5つの主要ニュース(11月1日~11月8日)
1.サマリー
11月初め、日本の政治・経済についての主な記事は50記事近くで、前週の2倍ほどに増えた。
最も多く取り上げられたのは、日銀追加緩和についてだった。ユーロ圏債務危機、アメリカの「財政の崖」問題、中国の成長鈍化など、世界経済の見通しが暗い中、日本の金融政策が注目された格好だ。各社の決算見通しも発表されたため、自動車・電機メーカーの苦境についても多数報道された。主に日中関係悪化の影響という文脈で扱われている。暗いニュースが続く中、日本の銀行が海外投資を拡大し、存在感が高まっているという報道も見られた。
2.日本の外交
【尖閣めぐりくすぶる日中関係】
尖閣諸島領有権を巡る日中の対立が続いている。
フィナンシャル・タイムズは、尖閣諸島周辺海域における日中の動きを報じた。10月末、中国国家海洋局は、「中国領海内で不法に操業していた日本の船舶を退去させた」と述べた一方、日本の海上保安庁は、「退去警告を掲げた中国の偵察船が日本海域に接近したが、日本側の警告に応じ退去した」と述べ、双方の主張は食い違っていると指摘。中国の国境問題専門家が、中国政府は自制し緊張を高めることはしないが、日本がこのままの態度ならば問題は悪化する、という旨のコメントを残していることを取り上げた。
ニューヨーク・タイムズは、陳健・元駐日中国大使が、「日中関係の緊張を高めている」と、アメリカを批判したことを報じた。共産党大会を前に、外交の一線から退いている同氏の意見は、中国の見解を非公式に表しているようで意義深いとしている。実際、「一部右翼による(国有化という)間違った行動」を助長する、などの批判は中国政府の尖閣問題に対しての見解と符合する。陳氏は、フィリピンとの間で生じている南シナ海での領土を巡る争いでも、アメリカの姿勢を批判したと報じられている。
なおオバマ政権は、有事の際は日本の味方だが領土をめぐる主権に関しては中立の立場だと明言している。
3.日本の経済
【日銀追加緩和】
日本銀行は30日、追加の金融緩和を行うことを決定した。日銀が供給するお金の量を11兆円増やし、総額91兆円とする。加えて、企業や個人がお金を借りやすくなる、新しい融資制度を創設する。金融緩和措置は2ヶ月連続となる。さらに、政府と日銀が一体でデフレ脱却に取り組むという異例の共同文書も発表し た。
海外各紙では、30日以前から、日銀が打ち出す政策予測や、緩和を期待するアナリストらの声を報じていた。背景として、欧米を始め世界の中央銀行が相次いで大胆な緩和策を発表したこと、前原経済財政大臣などが日銀に対し緩和圧力を強めていることが挙げられていた。
実際に緩和策が発表されてからの報道も、劇的な効果は期待できないとする論調だった。フィナンシャル・タイムズは、依然として円高傾向が続いている都指摘した上で、「(我々は)努力ではなく結果で評価される」という日産のカルロス・ゴーン社長のコメントを掲載した。ニューヨーク・タイムズは、企業の見通しが暗く借入マインドが低いうちは緩和策の十分な効果は期待できないと分析している。引続き政治からの緩和圧力が続くだろう、という海外アナリストの指摘も掲載した。
【ホンダ 業績予測下方修正】
ホンダは月曜日、第2四半期決算を発表し、今年度の業績予測を20%下方修正すると発表した。
フィナンシャル・タイムズは、中国での不買運動の影響と分析し、トヨタ、日産も同様に苦境に陥っているのではないかと報じている。実際、販売台数や営業利益の減少分はほぼ中国市場でのもので、日本車の需要急落のようすが伺えるとしている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、日本の自動車業界ぜんたいにとって今後の半年が非常に厳しい状況になると懸念している。中国での不買運動に加え、アメリカでの経費上昇も影響すると報じた。ニューヨーク・タイムズは、中国での売り上げが激減している中でも、ホンダの副社長が望みを捨てず中国工場への投資を続けていくという発言を報じた。
【トヨタ 純利益を上方修正】
こうした状況下で、トヨタは5日、今年度の純利益見通しを7600億円から2.6%増の7800億円と発表した。若干の円安効果とアメリカでの売上増が、中国での販売台数減を相殺し、7-9月期の純利益が前年比3倍となったためだという。ホンダや日産が中国での販売数激減の影響を受け苦戦する中、対照的なニュースとなった。
フィナンシャル・タイムズはトヨタの欧米での戦略を報じた。トヨタの中国での売り上げは全体の1割程度で、欧米での販売に力を入れていた。またオフィス縮小など経費削減も図り、厳しい自動車業界の中でも利益をもたらし続けていると紹介した。
トヨタの復活は、アメリカでの信頼回復が大きいとニューヨーク・タイムズは報じた。経営が困難だった昨年のトヨタのたゆまぬ努力により生産は軌道に戻った。新型ハイブリッド車の評価も上々と報じた。中国市場に遅れて参入し、依存度が低かったことも要因だとも分析している。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルはトヨタ車の人気の高さを報じた。主要な車種のモデルチェンジなど行ったことでより需要が高まり、前年国内での売り上げが赤字だったのが一転、国内・海外で黒字を記録した。この勢いで行けばGM社から首位の座を奪回できるとトヨタの好調ぶりを報じた。
【電機メーカーの危機】
シャープ、パナソニック、ソニーら日本の電機メーカーが軒並み業績悪化に苦しんでいる。海外各紙は、各社の今後の事業構造改革の可能性に注目している。
1日、シャープは「継続企業の前提に関する重要な疑義」の存在を認めた。最終損益は約4500億円の見通しで、営業キャッシュフローもマイナスとなったためだ。シャープは台湾の ホンハイ精密工業との資本提携交渉を行なっているが難航している。
パナソニックは7650億円の純損失を見込むと発表した。太陽電池、携帯電話事業の評価減などから、2年連続の大幅損失となり、1950年以来初めて配当を見送った。
ソニーは、営業損益は1300億円の黒字、最終損益は200億円の黒字と従来予想を据え置いたが、4−9月期の連結決算は最終損益が赤字となった。
3社とも、製造業バブル後の世界金融危機で、過剰な設備・労働力・投資を抱えたまま過去の栄光を捨てきれず再生困難となった、と各紙は分析している。ニューヨーク・タイムズは、過剰な設備投資の例として、西日本にある最先端の亀山工場を取り上げた。ここで製造されたシャープの液晶テレビ「アクオス」は爆発的ヒットとなり、CMでも同工場を宣伝するほどだった。しかし、金融危機以前から、フラットパネルテレビの価格急落が警告されていたという。現在亀山工場は、台湾のホンハイと所有権の交渉がなされ、iPhoneなどアップル製品のパネル製造を行っているようだ。
パナソニックの津賀社長は、同社が普通の会社ではないことを自覚することが復活への第一歩とし、再編事業を発表したと報じた。携帯電話の海外市場からの撤退や、工場・子会社のスリム化などを挙げて事業の合理化を目指すという。ただ、専門家は今後のビジョンが不透明と懸念していることも伝えられている。