海外が報じた日本 6つの主要ニュース(10月22日~10月28日)
サマリー
10月4週目、日本の政治・経済についての主な記事は21記事。前週よりさらに10記事ほど減った。日中関係のニュースが減り、アメリカ大統領選やユーロ問題の再燃に押されたことも影響している。
外交については日中関係に加え、米大統領選で日本の話題がほぼ扱われないことも報じられた。実際、外交問題をテーマにした討論会で、両候補は日本の話をしていない。経済については、対中輸出の激減や、日本国債の危機について取り上げられた、インドへの投資など積極策も注目されている。他には、花巻東高校の大谷選手がメジャー挑戦を表明したことが注目された。
1.日中貿易悪化
22日の財務省発表によると、9月の日本の対中輸出は14.1%減(8月は9.9%減)と、大きく下落した。
Financial Timesは、尖閣問題による摩擦だけではなく、中国自体の成長低迷も原因と指摘している。消費者主導の不買運動にはあまり影響されないはずの工業機械部門が大きく低迷していることから読み取れる。また11月は中国で10年に1度の政権委譲が予定されていることから、その時点での数字が今後の貿易方針に大きく影響するとの見方を伝えている。
The Wall Street Journalは、貿易停滞は中国より日本のダメージが大きく、「年明けまで続けば景気後退は避けられない」との見方を伝えた。さらに、合計で世界総生産の5分の1を占める経済大国どうしの貿易が冷え込むことは全世界に悪影響を及ぼすとして、国際通貨基金(IMF)が危惧している点を報じた。
The New York Timesは、「大震災以来」あるいは「リーマンショック以来」の危機的な状況をデータで示している。10月以降もさらに落ち込む見通しであるという。野田首相は内閣に刺激策策定を指示していたが内容に乏しいため市場の反応は薄く、また9月に資産購入プログラムを強化したばかりの日銀にもさらなるプレッシャーが掛かった、と難しい情勢を報じた。
2.日本国債の危機
Financial Timesは、1000兆円にのぼる借金を背負う日本を世界はどう見ているのか報じた。外国人投資家の役割が重要と指摘している。ユーロ危機からの避難先として、彼らの資金が流入するおかげで日本経済は助かっているが、将来の経済と社会の安定性を考えると、これ以上は厳しくなると報じた。日本政府は世界最大の負債大国であると自覚しているのか、危機的状況を把握せねばと忠告している。
また別の記事では、国債をめぐる与野党の動きを報じた。財務省は26日、大手金融機関25社を集めた臨時会議を開催、日本の財政が危機に陥っていることを報じた。赤字国債を発行したくてもできない状況に野田総理は立たされ、自民党は解散総選挙が開催を条件に予算を通過させない腹づもりであることを報じた。これまで当たり前に毎年発行された国債が発行できない日本は財政的に窮地に立たされていると報じた。
The Wall Street Journalは、政府が4000億円超の経済刺激策を進める予定だと報じた。予備費を活用する今回の政策の中には、東日本で被害に遭った地域の再生費用、医学研究の資金などが含まれ、日本経済の復活を図るとされている。景気回復を待ち望む有権者の怒りを買う前に、早急に的確な対策を実行することが重要と報じた。
3.メガバンクの海外進出
Financial Timesは、日本のメガバンクの海外進出を報じた。
三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、みずほフィナンシャルグループの三大銀行グループは、発展途上国の経済に大規模な協調融資を行う貸し付け計画に参入しつつある。2012年3月末の海外融資残高は、みずほが1278億ドル(約10.2兆円)、SMFGが1280億ドル(約10.2兆円)、MUFGが19.9兆円であった。過去2年間で20~50%増加している。過去の失敗から学び、危機管理システムを見直し国際関係を構築できるようになったが、問題は外国人役員の不足と国際預金に注目してもらうことの難しさであると指摘した。
背景として、日本は借入需要が少なく法人貯蓄が多いことが課題であり、海外市場により大きな需要とマージンを求めていると分析した。日本の海外融資は1997年の843兆円をピークに、2004年には135兆円まで下落したが、今では危機管理、顧客との関係等が改善しているとみている。ただ、さらに効果的に競争するためには、よりグローバル化する必要がある。MUFGは519の海外拠点をもつが、HSBCの5661ヶ所には及ばない国内の成長が見込めないため日本の銀行は海外で拡大するしかない。ユーロ圏の財政危機はあと数年続くと見られるが、その間日本の銀行は海外で成長を見せ、その存在は今日とは非常に異なるものとなるだろうと分析した。
4.田中法相辞任
23日、就任間もない田中法務大臣が辞任した。田中氏は2週間前、週刊誌に過去の暴力団との交友関係を暴露された。さらに、法律で禁止されている外国人からの政治献金問題も明らかになっており、辞任を求める声が高まっていた。野田総理は任命責任を問われている。内閣支持率が低迷する中、政権への打撃は深刻である。
The Wall Street Journalは、 田中氏の法務大臣辞任を巡り、総理の任命責任を追求する野党の姿勢を報じた。藤村内閣官房長官は定例会見で、野田総理の任命責任についての質問に対し、「辞任は健康上の理由からと聞いており記事とは直接関係ない、即座に後任を決定する」旨述べたが、石破自民党幹事長は、辞任すればおしまいではなく、総理の任命責任は極めて重大と述べた。なお世論調査によれば、自民党は民主党より支持率が高いため早期選挙を望んでおり、3年ぶりに政権を取り戻したい考え。朝日新聞の世論調査では野田政権の支持率は18%と更に低下した。
The New York Timesは、田中氏の法務大臣辞任問題に伴い、暴力団と政治家・ビジネスエリートとのつながりはかつて珍しくなかったと報じた。最近、暴力団排除条例により取り締まりがかなり厳しくなっていると指摘した。
また、世論調査では民主党の敗北はほぼ間違いないため、生き残りをはかる野田総理が時間稼ぎをする一方、野党議員の解散総選挙を求める声は一層強まっていると現状を分析。次の選挙では、民主党政権前、半世紀もの間ほぼ途切れることなく政権を担ってきた自民党が勝利すると見られ、戦後の構造改革を公約に掲げ政権をとった民主党は、停滞する国会に頭を悩ませていると報じた。
5.石原都知事、国政へ
石原慎太郎氏は25日、東京都知事を辞職し、新党を結成して次期衆院選に出馬すると表明した。次の衆院選にあたっては維新の会との連携を示唆した。
Financial Timesは、石原氏を、公然と中国批判をする「右翼主義者」と表現。国政への出馬が、日本の軍国主義の再燃を警戒する中国など隣国の警戒心をあおる可能性を示唆した。さらに、新党結成が、壊滅的な敗北が予想される民主党の離党者増加に波及する可能性を示唆し、第3勢力にも旋風を起こすチャンスがあるとした。
The Wall Street Journalは、尖閣問題を中心に石原氏の動向を紹介した。尖閣諸島の領有権問題を、石原氏の都による購入宣言に端を発するとし、辞任決断の理由の1つが、政府が尖閣諸島のインフラ整備に後ろ向きであることだと紹介。「政府が尖閣諸島に船だまりと灯台を建設するよう監督していきたい」という発言を載せた。
The New York Timesは、「国家主義」の石原氏の経歴を詳しく紹介。作家としての成功、平和憲法破棄や核武装の必要性を唱えてきた過去、自民党の国会議員として四半世紀以上を過ごしながら国政に影響を及ぼすことはできず一旦引退し、都知事として返り咲いたこと、尖閣諸島国有化のきっかけを作ったことなどを紹介した。
また自民・民主両党の低い支持率から、 現在の日本の政治が非常に流動的であると述べ、石原氏が「台風の目」たりうるかは、第3極勢力結集の可否などに大きく左右されるため、未知数だとした。
6.原発・エネルギー戦略の行方
Financial Timesは、日本政府の脱原発方針に疑問を呈している。政府は、2030年代までに原発を廃止すると発表しながらも、建設中の原発3台の工事再開を容認した。地元自治体からは批判の声が上がっていることを取り上げた。次に行われる選挙の結果次第で政策が変わる可能性もあり、日本のエネルギー戦略の曖昧さを報じた。
The Wall Street Journalは、原発依存が高まる理由について、専門家の解説を取り上げた。世界の人口が100億人に達すると予測される中、安価で環境に優しい原発が必要になる。誇張される危険性や誤解の説得、費用、管理力が課題だが、より安全に設計された原発を作っていくべきとの主張だ。
The New York Timesは、福島沖の魚の40%から基準値超のセシウムが検出されていることを報じた。昨年3月の福島原発事故で放出された放射性粒子が海底に蓄積され、何十年もの間、海洋生物を汚染すると警告されている。一方、水産庁は、現在は放射性物質が沈みつつあると推察すべきで、セシウムはやがて海底に潜り込むのでそれほど心配ないと言う。環境化学の専門家は、海流、沈殿物、魚の種類による放射線汚染の違いをもっと調査する必要があると述べている。なお発電所は現在汚染水を流しておらず、周辺の海水の放射線レベルは安定していると言う。