世界が報じた日本 9月17日~9月28日

1.サマリー
 ここ2週間の日本の政治・経済についての主な記事は44記事。外交に関しては、尖閣問題への日中台湾の反応を大きく取り上げている。経済に関しては、日銀の追加緩和が重点的に取り上げられた。政治に関しては、日本の原発方針と安倍元首相の自民党総裁就任が大きなニュースとなった。

2.日本の外交
 9月18~19日にかけて、中国各地で大規模な反日デモが行われた。
<尖閣問題:経済への影響>
 Financial Times(FT)やThe Wall Street Journal(WSJ)は、特に日本経済への影響を懸念するような記事を何本か掲載している。
 FTは、高まる反日感情や人件費上昇の影響で、日本の中国とのビジネスは困難になっており、他国へビジネスを移す動きが見られると報じた。大きな影響の1つとして、トヨタが10月の中国生産を停止したことを取り上げた。背景には需要減と生産力の低下に加え、中国へ輸出する部品等の通関が遅れていることがある。これは尖閣問題をめぐる日中間の対立の影響であり、長期化によるリスクをFTは懸念している。なお、「釣魚島への有効な対応策は必要だが、対立が続くことは中国の利益にならない」という中国人専門家のコメントも取り上げ、中国側の経済的デメリットへの懸念も示唆している。
 WSJも、尖閣問題に端を発した日中の軋轢が、計り知れない経済的影響を与えるのでは懸念している。日本→中国→各国という貿易が主要な形のため、両国の経済関係への打撃は世界的に影響を与えかねないという指摘もある。ただ、日中の政治関係がぼろぼろになろうとも、他の関連要素が膨大なため、経済関係には限定的な影響しかないとの見方もある。また、日本から中国への輸出製品の通関手続きが遅れており、領土問題の報復措置の可能性を指摘した。2010年に中国漁船衝突事故が起きた際、レアアースの取引規制があった過去もあり、政府は確認を急いでいると報じた。

<尖閣問題:政治>
 WSJは、野田首相がニューヨークで行われている国連総会の演説で、尖閣諸島をめぐる領有権問題について言及し、「領土と領海を守る」と発言し、中国各地で起きた反日デモについて非難したと報じた。このような演説は日本外交では異例のことで各国が注目したとしている。また火曜日に玄葉外務大臣と中国の楊外交部長が領有権問題について会談し、詳細は明らかになっていないが領有権に関する一定の合意は得られなかった模様だと報じた。またWSJは今回の問題の背景について、石原東京都知事が日本政府の対外的に弱腰な態度を批判しており、中国や韓国との関係に影響を及ぼしていると分析した。
 FTは、尖閣諸島の基本情報と歴史、騒動のいきさつについてQ&A形式でまとめた。日本、中国、台湾によって認識されている歴史的解釈が異なっていることを紹介した。豊富な資源がある可能性が判明してから、中国と台湾の態度が急変したことにもふれている。

<尖閣問題:台湾>
 25日、50隻近くの台湾船が尖閣諸島周辺の日本の領海へ侵入した。

 FTは、今回の事態の背景として、尖閣諸島の領有権をめぐる日中間の対立が深刻化する中、同じく領有権を主張する台湾は、日中それぞれと経済的・政治的に深い関係にあり、強い態度に出てこなかったと指摘した。しかし、中国漁船や監視船が尖閣諸島周辺海域に繰り出す中、島周辺の「漁業権を守る」という位置づけで行動を起こしたと紹介した。日本側は事態のエスカレーションを避けたい考えで、冷静に対応する姿勢だと報じた。ただ、中国や台湾の行動がエスカレートすれば、日本はアメリカに協力を要請することもありえるという専門家の見方を紹介した。このような行動は日本とアメリカの結束が強固なものになる絶好な機会でもあるという意見もあると報じている。
 WSJは、台湾側漁民の「抗議のためではない」という発言を紹介したものの、「釣魚台は台湾のもの」と掲げていた船がいるなど彼らの真意は定かではないと報じた。また台湾は中国と協力しないと発言しているが、今回の一連の行動で、中国だけでなく台湾にも注意を向けなければならないとみている。

3.日本の経済
<日銀 追加緩和>
 日銀は19日、資産買い入れ基金を10兆円増額する追加緩和措置を発表した。2013年12月末までに80兆円を目指し買い入れを進める。内訳は長期国債が5兆円、短期証券が5兆円。長期国債については、期限を2013年6月末から12月末へ延長する。さらに、応札額が予定額に達しない「札割れ」を回避するため、下限金利(年0.1%)も撤廃する。景気判断も「持ち直しの動きが一服している」に下方修正した。

 FTは、日銀の追加緩和策について、大胆だが効果に疑問を呈している。背景として、欧州中央銀行(ECB)と米FRBの相次ぐ緩和策により、円高圧力がさらに強まっていると指摘した。安住財務相に「予想以上」と評された大胆な緩和策だったが、発表後の円安・株価の上昇は一時的なものに留まった。今回のスピード判断の背景には、白川総裁が、政治関与を強める自民党が政権を担う可能性を危惧したことがあると分析している。
 International Herald Tribune(IHT)もFT同様の評価であり、効果に懐疑的な声を多数掲載している。政府のデータから、日本の景気回復の遅れは世界経済不況の煽りを受け、特に輸出産業にとって厳しい状況であることを指摘した。最大の貿易相手国である中国において、尖閣問題をめぐり反日デモなど政治・社会的リスクが高まっている点にも言及した。そもそも長期的なデフレ傾向が続いていることも指摘している。
 WSJは、日銀やアナリストのコメントを多数掲載し、追加緩和策の詳細、ねらい、背景、今後について分析した。今回の素早い緩和策の発表は、ECBとFRBの発表を受けたもので、「競争的緩和策」に陥るリスクを懸念する声が多数あると指摘した。今回の決定に際し、白川総裁は、特に近年の中国経済失速が議論の中心だったとコメントしている。一方で日中政治対立の影響はないとも述べており、理由としてはそれを判断するのは早すぎるとした。

4.日本の政治
<日本の原発方針>
 政府は2030年代の原発稼働ゼロを目指す「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を見送った。

 FTは、あいまいな決定に対し、日本の新聞は原発賛成・反対双方の立場から批判的な記事を書いていることを紹介した。今後3台の原子炉を完成させるとの枝野産業大臣の発言を受けて支持が落ちている民主党は、原発ゼロを支持する半数以上の国民とどう向き合うかが大きな課題となっていると報じた。
 IHTは、原子力発電の放棄は日本経済に大きなダメージがあると指摘している。米倉弘昌経団連会長は「受け入れられない戦略」と激しく反対していると報じた。政府は今後経済界や国民、双方に理解を得られるような法案、戦略を考えていけねばならないと厳しい見方を示した。
 WSJは、賛否両論を取り上げている。今回の見送りにより、経団連の米倉会長は「原発ゼロは回避できた」と発言し、確実なエネルギー政策を考えるよう政府に訴えたと報じた。一方国際環境NGOの幹部は、国民は裏切られたと感じているのでは、とのコメントを紹介した。。

<安倍元首相 自民党総裁就任>
26日の自民党総裁選で、元首相の安倍晋三氏が選出された。

 FTは、安倍氏がもつ国家主義者の側面に注目した。例えば、従軍慰安婦問題に対する政府の謝罪再考を要求したこと、尖閣問題についても強硬な姿勢を示していることなどだ。自身に近いイデオロギーを持つ人物と外交に取り組むと、危険が増すという指摘がある。ただ、安倍氏は前回の首相就任後、初めての外遊先に中国を選ぶなど、日中関係を重視しているとの指摘も紹介した。
 IHTは、次回の総選挙で、民主党と自民党のどちらが政権をとるのかという問題について分析している。現在民主党は、脱官僚・政治主導という方針を貫けず、東日本大震災からの復興の方向性も見えないため、支持率は低下していると指摘した。だが自民党も、多くの票を獲得できる決定的要因はない。安倍氏は2006年に総理大臣を突然辞任して非難を受けているためだとみている。政治評論家は、有権者にとってはどちらの党にも根本的に大きな違いが見られないので、両党ともに大きな支持を得られない可能性もあると指摘した。両党内の混乱もしばらく続き、状況は停滞し続けるとの見方もある。
 WSJは、安倍氏は日本の不況に関して明確な方針を示していることを取り上げた。安倍氏は日本銀行に対して、デフレ対策に積極的に取り組むことを要求している。インフレ目標を現在の1%から2~3%に引き上げることや、中央銀行がインフレを達成しやすくなるような法律の改正など具体的な考えを明らかにした。安倍政権下では日銀への圧力はさらに増すだろうと専門家は分析している。

Text by NewSphere 編集部