「うまい、でも決定的な違いは…」サッカー大国アルゼンチンが見たJリーグ

 8月11日。大阪の万博記念競技場に集った、両サポーターの試合後の反応は対照的であった。「Jリーグヤマザキナビスコカップ」王者のガンバ大阪と、「コパ・トタル・スダメリカーナ」王者である南米の強豪リーベル・プレートが激突した「スルガ銀行チャンピオンシップ2015」。試合は終始リーベル・プレートのペースで進み、終わってみると3対0のスコアで宇佐美貴史ら主力を欠いたガンバ大阪を完封。アルゼンチンの『LaRepubilica』紙でも「リーベルがガンバを一蹴」と報道された。試合を通して、南米サッカーのレベルの高さをまざまざと見せつけられる結果となり、お祭り騒ぎのリーベルファンと足早に帰路につくガンバファンという、両極端な構図が印象に残る大会となった。

◆クラブワールドカップを控えた大国アルゼンチンの本気度
 Jリーグ勢が同大会で敗れたのは、2009年の大分トリニータ以来実に6年振り。だが、クラブ世界一を決める「FIFAクラブワールドカップジャパン」への出場を決めている今年のリーベル・プレートは、過去の参加チームと比較しても“本気度”が際立っていた。

 クラブワールドカップへの予行演習的な側面も強かったこともあり、ほぼベストメンバーで来日。アルゼンチンからはるばる訪れたサポーターやメディア、日本で働く熱狂的なアルゼンチン人も多数会場で目にした。そんなアルゼンチン人達に大会の意義を聞くと、「クラブワールドカップが控えていることもあり、今大会の立ち位置はリーベルにとって極めて重要」と、口を揃えた。

◆サポーターから見た日本サッカーの印象とは
 アルゼンチンからこの日のためにわざわざ駆けつけたというパブロさんは、日本サッカーに対しての印象についてこう話してくれた。
「率直に言うとクリエイティビティが溢れるような、試合を決めることができる選手が少なかった。それに、1つ1つのプレーに対して力強さが足りないとも感じた。運動量多く走ることはよいが、試合の中で時には緩急をつける考え方も必要ではないか」。

 日本の工場で勤務するギドさんは、静岡からリーベル・プレートを観戦するために訪れた。
「ガンバだけでなく、ジュビロ磐田や清水エスパルスの試合なども頻繁に見に行きます。Jリーグ全体の印象は、個々のボールを扱うスキルは高いけど、“イノセント”なサッカーですね。何といってもシュート数が絶対的に足りない。シュートコースが開いているのに、パスの選択肢をとる場面が多すぎる。これがアルゼンチンなら、間違いなくサポーターから大ブーイングが起きます。(笑)ゴールを目指すという意識に、アルゼンチンと日本の間には決定的な違いがあると思う。1試合の中で展開の起伏が小さく、闘志を全面に出すような選手もほとんど見かけません。だから、観戦する側からすると、アルゼンチンリーグと比較すると物足りなさがあるのも事実です」

◆オフィシャルメディアが語るJリーグとアルゼンチンクラブの差
 今回、アルゼンチン側のオフィシャルメディアとして取材に訪れていた、TANC SPORTSのファン・コルテセ記者にガンバ大阪の印象を聞いた。
「サッカーは長年積み重ねた歴史がモノを言うスポーツ。日本は急速に発展してきましたが、必要なことは一度立ち止まって”Waiting”することだと思います。自分たちのクラブや国のスタイルをしっかりと見つめなおすこと。アルゼンチンは特に守備に関して、各クラブが育成から徹底した考え方を持っています。今回の試合では、特に守備面での差が出たのではないでしょうか。ガンバ大阪には7番(遠藤選手)など良い選手もいましたが、ゴールに直結するプレーが少ないように感じました」

◆両国の間に見えたサッカー感の違い
 最後に筆者がアルゼンチンを訪れた際のエピソードを紹介したい。リーグの試合を観戦している際に、スタジアムの沸点が高まった3つのシーンがあった。1つは、タッチライン際でスライディングでインプレーにした際。2つめが、鋭いタックルで相手のボールを奪いとった時。そして最後が、DFを嘲笑うような股抜きで相手選手を抜き去ったシーンだ。上記の3つのプレーを選手が披露した後は、地鳴りのようなチャント(応援歌)の大合唱が始まった。

 試合後にサポーター達に話を聞くと、「これがアルゼンチンのスタイルなんだ。ブラジルや他の南米各国とは違う。俺達はその誇りを持ってチームを応援している」という答えが返ってきた。

 南米王者を決める「コパ・リベルタドーレス」の決勝を戦った後に、強行軍で来日し、好パフォーマンスを披露したリーベル・プレート。東アジアカップから中一日というスケジュールで、日本代表に選出された主力選手が満足にプレーできなかったガンバ大阪。サッカー協会の姿勢や、クラブの大会にかける意気込みからも、両国のサッカー感の違いを読み取ることができるのではないだろうか。

Text by 栗田シメイ