金正恩暗殺映画『インタビュー』 知的でシリアスな風刺コメディ、との好評価も

 北朝鮮の非難声明と配給元のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)へのサイバー攻撃を受け、一旦は上映中止となっていたハリウッドコメディ映画『ザ・インタビュー』が25日、全米の独立系映画館で劇場公開された。同時に、YouTubeなどで有料レンタル配信(米国内のみ)も開始されている。

 アメリカの各メディアは早速、作品レビューや公開に至る経緯を評価する論説を掲載している。CNNの報道によれば、公開日に劇場に並んだ映画ファンからは『ザ・インタビュー』を見るのはアメリカの表現の自由を守る「愛国的な義務だ」といった言葉も出たという。

◆『ザ・インタビュー』を見るのは「愛国的な義務」
 『ザ・インタビュー』は、セス・ローゲン、ジェームズ・フランコのドタバタコンビによるコメディ映画。2人が演じる記者が、北朝鮮の金正恩第一書記にインタビューできることになり、CIAから暗殺を依頼されるという内容だ。これが現実世界の北朝鮮の怒りを買い、同国政府は非難声明を発表。北朝鮮からのものと思われるSPEへのサイバー攻撃や劇場へのテロ予告を経て、今月17日に一旦は全面的な上映中止が発表された。

 しかし、SPEは23日、急遽方針を変更。予定通り25日の全米公開に踏み切った。ただし、当初予定されていた大手の映画館ではなく、331ヶ所の独立系の小規模な映画館での上映となった。それでも、「アメリカの言論の自由が独裁国家に侵された」と大ブーイングが渦巻いていた米国内では、SPEの“英断”が高く評価されているようだ。ホワイトハウスは25日、「人々は今、この映画について自ら選択することができるようになった。これが本来あるべき姿だ」とコメントを発表した(CNN)。

 ニューヨーク郊外のグリニッジ・ビレッジの映画館に並んでいたファンからは、「これは単にクリスマス休暇のエンターテイメントではない。『ザ・インタビュー』を見るのは愛国的な義務だ」といった言葉も出たという。主演のセス・ローゲンは、ロサンゼルスの映画館で舞台挨拶に立ち、「このような(勇気ある)映画館と皆さんがいなければ、(公開は)実現しなかった」と語った。

 これらの公開当日の様子を報じたCNNによれば、FBIや地元警察が各映画館にテロに警戒するよう要請したものの、さしたる混乱は報告されていないという。各地の映画館は「むしろお祭り気分に包まれていた」とのことだ。

◆ネット配信でも売上トップに
 劇場公開よりも一足早く、24日からインターネット配信も始まった。今のところ、YouTube、GooglePlay、Xboxビデオストアで、5.99ドルでレンタル配信されている(米国内のみ)。CNNの報道によれば、配信開始の午後1時を回るとアクセスが殺到。各社とも再生数の公表はしていないが、YouTubeとGooglePlayが発表している売上ランキングでたちまちトップに踊り出た。

 劇場での売上も好調なようだ。CNNのインタビューに答えたバージニア州の独立系映画館のオーナーは、「前売り券の問い合わせの電話が鳴り止まない。窓口にもお客が殺到している」と嬉しい悲鳴を上げている。この映画館では、歴代トップクラスの売上を予想しているという。

 また、海賊版が早くも違法サイトに多数アップされているとニューヨーク・タイムズ紙(NYT)などが報じている。その中には、『金正恩を暗殺せよ』という翻訳タイトルの中国語字幕版もあるという。SPEは、こうした海賊版に厳しい対応を取ると共に、上映・配信範囲さらにを拡大するため、「引き続き新たな手段を探る努力を続ける」としている。

◆コメディ映画としては平凡とのレビューも
 ワシントン・ポスト紙は、『ザ・インタビュー』を巡る一連の動きに対する識者の論説を掲載している。映画・メディア関連のコンサルティングを専門とする筆者のリッチ・クライン氏は、この映画には、金王朝を打ち砕く示唆に富んだ「知的」で「シリアス」な面もあると力説する。

 クライン氏は「ローゲンと監督のエヴァン・ゴールドバーグは、完全なフィクションとして描くこともできたはずだ。にもかかわらず、あえて危険な内容を避けることはしなかった」と、作品には真面目な北朝鮮批判の意図も込められている分析する。最終的に公開に転じたSPEの判断についても、「正しい行いだ。なぜなら、これは政治風刺のコメディ映画以上の問題だからだ」と評価。今回の騒動を「非常に危険で不安定な北朝鮮の実態にスポットライトを当てた。北朝鮮問題を議論するよい機会だ」と論じている。

 一方、公開日にNYTの映画欄に掲載されたレビューは、騒動にまつわる「言論の自由」云々の部分を茶化した文体で流している。また、純粋なコメディとしても、平凡で目新しさはないと、あまり高く評価していない。そして、この映画が映し出す現実とは、政治的な北朝鮮批判ではなく、アメリカのポップカルチャーが世界に与える影響の大きさだと論じている。

Text by NewSphere 編集部