メディアが報じない、中国“暴力事件”の裏側とは 映画「罪の手ざわり」ジャ・ジャンクー監督に聞く
中国映画「罪の手ざわり」が、2014年5月31日公開される。山西省、重慶市、湖北省、広東省で実際起きた四つの事件を題材に、中国で拡大する暴力の闇に迫る作品だ。日本公開を前にこのほど来日したジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督は「人は尊厳のために戦い、権力者に立ち向かい、正義のために前進する。暴力で暴力を制するのはいけないが、人が抗(あらが)う行為は尊重したい」と語った。
【急速な経済発展と社会変化 翻弄される人々見つめて】
三峡ダム建設で水没する町が舞台の「長江哀歌」(06)、巨大国営工場閉鎖と労働者の人生を描いた「四川のうた」(08)など、急速な経済成長、社会変化にもまれる人々を見つめてきた監督。中国では今年に入り、雲南省昆明市や広東省広州市で無差別殺傷事件が発生。新疆ウイグル自治区でもテロが相次いでいる。監督は撮影を通じ、暴力が起きる理由を探った。
「暴力と社会は密接に関係している。国や業界は暴力を撮ることを歓迎しない。だが私はそれに向き合い、考えてみたかった。マスコミは事件について報道するが、何かが足りない。背景に何があり、個人がなぜ追い詰められたのか。私も原因はよく分からなかった。情報を集め、脚本を書き、撮影する過程を通じ、リアルな理由に近付けたと思う。正面から向き合わなければ、暴力はなくならない」
【貧困と絶望、傷つけられる尊厳 中国のどこでも起きうる】
「罪の手ざわり」では、中国の北から南へ四つのエピソードが描かれる。まずは山西省。村の炭鉱払い下げで不正があり、企業は環境汚染を黙認。不満を募らせた男が猟銃で村長らを惨殺する。二つ目は重慶市。殺人容疑の指名手配犯が旅先で強盗を繰り返し、妻子に「出稼ぎ」と偽って仕送りを続ける。三つ目は湖北省。ナイトクラブの女性ダンサーが、客に風俗サービスを強要され、逆上して男を刺し殺す。四つ目は広東省。縫製工場の若い出稼ぎ労働者が、将来を悲観して飛び降り自殺する。
「一つ目は社会問題が理由の暴力。二つ目は田舎町で自我を実現できない困難と貧困。三つ目は他人に尊厳を傷つけられた人間の反応。四つ目は人間が自滅していく過程だ。都市に受け入れられず、機械化され、感情的に孤立する人間。中国のどこでも起きうる事件だと思った」
【天に与えられた定め 人が抗う行為を尊重したい】
尊厳を奪われた弱者が、最後の抵抗として起こす殺人。搾取される立場から逃れられず、絶望と貧困から生まれる暴力。日々をひたむきに生きる普通の人々が、追い詰められて罪に触れる。声にならない叫びが画面から聞こえてくる。作品の原題は「天注定」。「天の定め」を意味する。
「中国語で『天注定』は微妙なニュアンスを持つ。一つは宿命。悲観的で消極的な意味だ。もう一つは『天に与えられたもの』。その言葉に導かれ、人は自分の尊厳のため戦い、権力者に立ち向かい、正義のために前進する。天は万物の神、大自然と言おうか。私はいつも言う。暴力で暴力を制するのはいけない。ただ、天に与えられたものとして、暴力であっても人が抗う行為は尊重したい。私にとっての抗いは、映画を撮ることだ」
■映画概要
「罪の手ざわり」(2013年、中国)
監督:ジャ・ジャンクー(賈樟柯)
出演:チャオ・タオ(趙濤)、チァン・ウー(姜武)、ワン・バオチャン(王宝強)、ルオ・ランシャン(羅藍山)
2014年5月31日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。
作品写真:(C)2013 BANDAI VISUAL,BITTERS END,OFFICE KITANO