『そして父になる』海外メディアが注目する、子役から演技を引き出す是枝監督の手腕とは

 9月26日から10月11日に開催された第32回バンクーバー国際映画祭で、是枝裕和監督の『そして父になる』が観客賞を受賞した。この作品は、今年5月に第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しており、米ドリームワークスによるリメイクが決定している。

 『そして父になる』は6年前の出生時に赤ん坊を取り違えられた2組の両親が、子供の交換をする、という辛い試みを描いたストーリー。決して新しいテーマではないが、是枝監督はありがちなファミリードラマにする事なく、感動的で心を揺さぶる作品として製作した、として映画情報サイト「twitch」は紹介している。

【前作との比較は?】
 前作2011年の『奇跡』は子供の視点で描いた作品だが、『そして父になる』は大人の視点から描いた作品である。実際、是枝監督は、映画誌「cine-vue」のインタビューで、「『奇跡』は自分の幼少期の感情を思い出そうと記憶をたどったが、時間が経っていて難しかった」と述べている。しかし『そして〜』においては親としての経験を最近しており、主人公の経験した事を客観的に捉えるのは辛かったことを語っている。「『奇跡』が遠すぎ、『そして〜』が近すぎる視点、そこが難点であった。」というコメントをしている。

【父親としての視点で描いた】
 『そして父になる』は福山雅治演じる良多が父親とは何かを受け入れるもの、と同誌は分析している。同誌のインタビューで、どの家族にも当てはまるものとして製作したかという問いに対し、是枝監督は「国外での反応は全く考えていなかった。自分の周りで何が起こっていることしか考えていない。」とコメントしている。同誌は、監督は個人的な問題を広く、国民的かつ社会学的な意見として作り上げている、としながらも、現代の育児に関連のある問題ではあるが、それを包括しているのは僅かで、押し付けるのではなく、むしろドラマを引き立たせている、と評している。

【子役から演技を引き出す才能】
 是枝監督の、子役から演技を引き出す才能に関して、海外メディアは着目している。映画情報サイト「twitch」は2004年『誰も知らない』では第57回カンヌ国際映画祭で柳楽優弥が主演男優賞を受賞、子役から素晴らしい演技を引き出す是枝監督の才能は有名であることを伝えている。映画誌「cine-vue」は独自に行ったインタビューで、子役から自然な演技を引き出すには「子役に脚本を与えず、オーディションのプロセスを重視している。子役が話し、使う言葉を拾って、その子自身を知り、それを映画の中に投影する。」という是枝監督のコメントを紹介している。

Text by NewSphere 編集部