新幹線を夢見たイギリスのHS2計画、いかに「悲惨な失敗」に至ったのか
◆高額すぎて引き返せない
それでもHS2計画が撤回に至らなかったのは、すでに投じた巨費を惜しむ心理的要因が働いたためだ。ギリガン氏はサンデー・タイムズ紙への寄稿で、「HS2は、おそらく意図的に、高額すぎて中止できない規模になっていた」と主張する。
HS2は2020年の時点で、設計や用地買収などの「準備作業」に、90億ポンド(約1.8兆円)もの巨費が投じられていた。仮にここで事業を中止しても、その費用はほとんど無駄になってしまう。このため政府は、すでに多額の費用をかけているため、完遂するのが賢明だとばかりに事業の継続を正当化した。この時点ですでに、事実上引き返すことが困難な状況に陥っていた。
もっとも、暗い話題ばかりではない。ガーディアン紙が10月30日に報じたところによると、イギリスのレイチェル・リーブス財務相は、ロンドン中心部の北部に位置するユーストン駅までの延伸工事に係る資金を確保したと明らかにした。当初計画されていた中心部への乗り入れについて、一部区間の見通しが立った形だ。
迷走が続く巨大プロジェクトのHS2計画は、数々の議論を巻き起こしながら、当初の見込みとは異なる形で実現に向かっている。