トランプ氏「関税で米自動車工場が増加」 その数字は正しいのか?
BMWスパータンバーグ工場の組み立てライン(米サウスカロライナ州、2022年10月)|Sean Rayford / AP Photo
ドナルド・トランプ米大統領が、関税政策によってアメリカ国内で自動車工場の建設が相次いでいると主張している。しかし、その根拠として挙げた数字や説明には、事実と異なる点が少なくない。
トランプ氏は10月6日、メリーランド州ボルティモアの造船所での演説で、「この国では44年間、自動車工場が建設されなかった。今では歴史上かつてないほど多くの自動車工場を建設している」と発言した。日本やドイツ、韓国などから自動車メーカーがアメリカに戻ってきているとも述べ、関税政策の成果を強調した。
実際、トランプ政権下で自動車メーカーによる大型投資や工場建設が進んでいる。しかし、AP通信が工場の建設実績や専門家の見解を検証したところ、トランプ氏の主張には誇張や事実に反する内容が含まれていた。
◆「44年間工場ゼロ」は事実と異なる
アメリカで44年間、自動車工場が建設されなかったという主張は正しくない。自動車メーカーの沿革や公的記録、業界団体「オートズ・ドライブ・アメリカ」のデータに基づくAP通信の調査によると、過去40年間にアメリカでは24か所を超える主要な自動車組立工場が新設されている。このほか、買収や改修、用途変更が行われた工場もある。
トランプ氏の1期目には、トヨタとマツダがアラバマ州に大規模な合弁工場を建設する計画を発表し、スウェーデンのボルボもサウスカロライナ州にアメリカ初の工場を開設した。
2期目には、電気自動車(EV)メーカーのリヴィアンがジョージア州で新工場の建設に向けた起工式を行い、同州では韓国のヒョンデ自動車グループの新工場も正式開業した。
ただし、こうした工場建設の動きは、トランプ政権下で突然始まったわけではない。
例えばヒョンデのジョージア州工場は、バイデン前政権下の2022年に着工し、2024年10月には自動車の生産を開始していた。正式な開業式が行われたのは2025年3月だった。
バイデン政権下でも、テスラがテキサス州に新工場を開設したほか、フォードがEV生産施設を開設し、テネシー州ではEV・バッテリー生産拠点の建設に着手するなど、自動車産業への投資が進んでいた。
ミシガン大学のジョシュア・ハウスマン経済学准教授は、アメリカで販売される自動車の多くは以前から国内で生産されており、「過去数十年間、自動車工場は定期的に建設されてきた」と指摘する。
オートズ・ドライブ・アメリカの集計によると、2026年時点でアメリカ国内で稼働している乗用車・小型商用車の組立工場は51か所。5年前の52か所から、わずかながら減少している。
◆日本メーカーは数十年前から米国で現地生産
トランプ氏は演説で、「わが国の自動車産業が戻ってきている」と述べ、メーカーがカナダやメキシコ、日本、ドイツ、韓国からアメリカに移ってきていると主張した。
しかし、外国メーカーによるアメリカ国内での自動車生産には、長い歴史がある。
フォルクスワーゲンは1970年代後半にアメリカで自動車の組立を開始。1980年代にはホンダ、日産、トヨタやヨーロッパのメーカーが相次いで現地生産に乗り出した。現在では、これらのメーカーがアメリカ国内で年間数百万台規模の自動車を生産・販売している。
トランプ政権は、自動車メーカーによる総額500億ドルを超える投資計画を、政権の通商政策による成果として挙げている。
その一つが、トヨタが2025年11月に発表した、今後5年間で最大100億ドルのアメリカ国内事業への追加投資だ。ただし、トヨタはこの投資が新たな自動車組立工場の建設に充てられるとは確認していない。
また、ステランティスはアメリカでの事業拡大に130億ドルを投じる計画を発表。フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、メルセデス・ベンツによる投資計画も、政権の実績に含まれている。
ホワイトハウスのテイラー・ロジャース報道官は、トランプ氏が製造業の復興を成功させ、何兆ドルもの投資を呼び込んでいると主張。「アメリカ第一」の通商政策による成果だと強調した。
しかし、専門家らによると、こうした投資のすべてが新たな自動車組立工場の建設を目的としているわけではなく、過去の政権下でも同様の投資は行われてきた。
◆関税で自動車工場は増えるのか
トランプ氏は、自動車産業の回復について「すべては私の大好きな言葉、関税のおかげだ」と述べた。
しかし専門家らは、アメリカ国内での自動車生産への投資を、単純に関税の成果とみなすことはできないと指摘している。
自動車産業の調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのサム・フィオラニ副社長は、現在の関税政策によって生産拠点の移転は起きているものの、新たな組立工場の建設が急増しているわけではないと説明する。
「自動車メーカーは長期的な視点で投資を行うのであって、一つの政権の短期的な判断に基づいて決めるわけではない」
ハウスマン氏も、工場の建設には長い時間がかかると指摘する。半年後に関税が引き下げられる可能性や、次の政権で撤廃される可能性があると企業が考えれば、新工場建設を決断する理由にはなりにくいという。
さらに、関税は自動車メーカーにアメリカ国内での生産を促す一方で、製造コストを押し上げる要因にもなっている。
トランプ政権の関税は輸入車だけでなく、アメリカ国内での自動車生産に欠かせない鉄鋼やアルミニウムなどにも影響する。このためメーカーは、海外生産に伴う関税負担と、アメリカ国内で生産する場合のコスト増加を比較しなければならない。
フィオラニ氏は、自動車産業は価格に非常に敏感であり、部品の調達先や工場の立地は国際競争力を考慮して決められると説明。関税によって手頃な価格の部品などが使いにくくなり、自動車の価格を押し上げていると指摘した。
(AP通信の記事を基に、一部情報を補足して構成)




