メルコスールとFTA署名 反対を押し切ったEU、その狙いと懸念
欧州議会前で、メルコスールとの自由貿易協定に反対する人々(1月20日)|Pascal Bastien / AP Photo
欧州連合(EU)と南米南部共同市場(メルコスール)は、25年以上に及ぶ交渉を経て、1月17日に自由貿易協定(FTA)に署名した。欧州議会などの承認を経て発効すれば、7億人以上をカバーし、世界の国内総生産(GDP)の20%を占める世界最大級の自由貿易圏となる見通しだ。
◆欧州の成長に貢献 歴史的大型FTA
この協定は、貿易促進の一環として、EU27カ国とブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイの連携を強化し、90%以上の製品に対する輸入関税を撤廃するというものだ。世界の不確実性が高まるなか、輸出の促進、欧州経済の下支え、外交関係や地政学的影響力の強化に資する協定として、EUはこの合意を位置付けている。
協定の発効により、EUの自動車や機械、医薬品などの南米向け輸出が促進されると期待されている。特に苦境にある欧州自動車産業にとっては、自動車の成長市場であり、輸入に依存するメルコスールは重要な輸出先となり得る。また、チーズ、オリーブオイル、ワイン、蒸留酒などの高付加価値農産品についても、関税引き下げによる市場アクセス改善が見込まれており、EU側は雇用創出や競争力強化につながるとしている。
◆欧州農業国反発 食の安全、環境面でも懸念大
一方、フランスやベルギーを始めとする反対派は、メルコスール側からの安価な肉、砂糖、米、大豆などの流入が、自国農家に深刻な打撃を与えると主張している(AFP)。農業分野を中心に、抗議活動や政治的な反発は根強い。
また、EUで使用が禁止されている有害な農薬などを使って生産された食品が輸入されることで、EUの食の安全基準が骨抜きになるのではないかという懸念も出ている。これに対しEU側は、既存の食品安全規制は維持されるとしているが、批判派は規制の実効性に疑問を投げかけている。(ユーロニュース)
環境保護の専門家からは、この協定が南米の環境悪化を招く恐れがあるとの指摘もある。牛肉や大豆といった排出集約度の高い食品の貿易拡大は、地球規模の温室効果ガス排出量増加につながりかねない。さらに、自由貿易化が森林伐採や鉱業など「汚れた」採掘産業を後押しし、現地の環境破壊を加速させる懸念も指摘されている。高付加価値のEU製品が南米市場を席巻することで、現地産業の空洞化や雇用喪失が進み、南米がEU向け低付加価値原材料の供給地に固定される「新植民地主義」が定着しかねないとの批判もある。(環境ジャーナリズムサイト『ダイアログ・アース』)
◆米中を意識 地政学的サバイバルの取り組み
EUがメルコスールとのFTAを重視する背景には、経済的利益だけでなく、地政学的な狙いもある。特定国への依存を減らし、ルールに基づく国際秩序を支えるパートナーとの連携を強化することで、アメリカや中国が主導する経済圏に対抗する戦略的自立性を高めようとしている。
なかでも重要原材料(重要鉱物)は協定のカギとなる分野だ。EUでは今後、電池や再生可能エネルギー分野を中心に需要の急増が見込まれる一方、現状では中国への依存度が高い。リチウムなどの埋蔵量が豊富なメルコスール諸国との関係強化は、資源確保の観点からもEUにとって重要な意味を持つ。
もっとも、協定の先行きはなお不透明だ。反対派による抗議は続いており、欧州議会は1月21日、この協定がEUの規則に適合するかどうかについて欧州司法裁判所に判断を求めることを決議した。協定は欧州議会の承認を得て初めて正式発効するが、この手続きにより、批准が18カ月から2年程度遅れる可能性も指摘されている。(ユーロニュース、ING)




