中国「1兆ドル貿易黒字」の代償 過度な輸出依存が招くリスクとは

中国東部山東省煙台の港。輸出される車両やトラック(1月2日)|Chinatopix via AP

 今年1月から11月までの中国の貿易黒字が、史上初めて1兆ドルを突破した。「トランプ関税」発動で輸出の動向が注目されたが、結果は絶好調。しかし、過度な輸出依存は貿易相手国から批判されるだけでなく、中国自体の経済低迷からの脱却を困難にするとみられている。

◆アメリカへの輸出は減少 他国向けで穴埋め
 中国税関総署の発表によれば、11月の貿易黒字は、前年同月比14.7%増の1116億ドル(約17兆円)だった。1月から11月では1兆756億ドルで、史上初めて1兆ドルを突破。今年通年で、過去最高となることが確実となった。いわゆる「トランプ関税」で中国からアメリカへの輸出は減少したが、その他の国々への輸出がその埋め合わせをした。豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙(SMH)によれば、EU向け輸出は年初来で8%超増加。アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカへの輸出も、それぞれ年初来で26%、14%、7.1%増加した。

 もっとも、アメリカへの輸出減少にはからくりがある。英ガーディアン紙によれば、中国からの輸出品は「積み替え」と呼ばれる方法で、高関税回避のためインドネシア、マレーシア、フィリピンといった第三国を経由してアメリカに流入している可能性があるとみられている。中国のように低価格で大量の消費財を生産できる国はほとんどなく、安価な中国製品の需要はアメリカで依然としてなくなってはいない。

◆輸出依存が鮮明 国内不況でも成長目標達成へ
 中国の巨額の貿易黒字から読み取れるのは、過度の輸出依存だ。ガーディアン紙は、世界の多くの国が、自国の産業を脅かす安価な中国製品があふれていることに危機感を持っていると指摘。最近訪中したフランスのマクロン大統領は、EUとの貿易黒字削減に向けた措置が取られない場合、関税を課すと習近平国家主席に対し警告した。同紙によれば、EU向け輸出は11月単月で前年同月比14.8%増となり、10月の0.9%増から伸びが加速した。

 中国の積極的な貿易政策は、国内需要の低迷、不動産セクターの継続的な崩壊、産業の過剰生産能力など、国内経済が抱える問題点により増幅されているとSMHは指摘する。政府が取ったさまざまな消費刺激策もその場しのぎ的で、相変わらず中央集権的な指導と補助金で市場シェアを他国から奪い、輸出による成長戦略を続けていると批判している。

 英エコノミスト誌も、中国政府は国内経済の低迷を打開するためさまざまな消費拡大策を打ち出したが、いずれの施策も景況感を好転させるには規模が不十分だったと述べる。しかし、デフレ定着で国内の物価下落が中国製品の海外競争力を高め、結果的に強力な財政刺激策や不動産不振解消への取り組みなどがなくても、今年の公式成長目標「5%前後」が達成可能な状況になっていると指摘。強力な景気減速への対応には多額の費用がかかるため、中央政府は他に選択肢がなくなるまで待つだろうと述べている。

◆本腰の消費刺激策必須 遅れれば日本の二の舞に
 モルガン・スタンレー、キャピタル・エコノミクスの専門家は、今後も中国の世界での輸出シェアは拡大すると予測しており、中国経済の輸出依存は続くと見ている。(ガーディアン紙)

 しかし、住宅価格の下落が止まらず、デフレが長期化すれば中国は数十年にわたって日本を悩ませてきた「デフレマインド」に陥る可能性があるとエコノミスト誌は述べる。また、世界の金利は低下傾向にあり、人民元はすでに上昇圧力に直面していると指摘。欧州の追加関税やアメリカのハイテク不況が海外需要を削れば、中国は国内消費の刺激を余儀なくされるが、その時点で景気回復はさらに困難になっている可能性もあるとする。同誌は、経済の「主たるけん引役」は内需であるべきだとし、成長の推進力として海外に依存し続けることは危険だという見方を示している。

Text by 山川 真智子