ブーム終焉、米クラフトビールの岐路 消費者志向の変化で20年ぶりに閉鎖超過
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アメリカでは2000年代にクラフトビールのブームが起き、独創的な銘柄が市場を賑わせてきた。しかしコロナ禍を機にした嗜好の変化やコスト高の直撃で逆風が強まっている。2024年は約20年ぶりに醸造所の閉鎖数が開業数を上回り、生産量も4%減。2025年も閉鎖超過の傾向は続き、業界は再編のまっただ中にある。
◆先が読めなかった熱狂、相次ぐ閉鎖
アメリカの小規模独立系醸造所のロビー団体「ブルワーズ・アソシエーション」(BA)によれば、2024年は約20年ぶりに醸造所の閉鎖が開業を上回った。かつての全盛期に中小のクラフト醸造所を設立・買収した大手も、現在は一部ブランドの売却を進めているという。
コスト面でも逆風が強い。人件費や不動産費に加え、2018年以降のアルミ関税などで缶のコストが上昇し、負担が続いている。
BAによれば、2015年に約4800だったクラフト醸造所は、2024年は9796まで増えた。裾野拡大の一方で、採算と差別化は年々難しくなっている。2025年6月時点では9269に減少しており、関係者はさらに多くの小規模醸造所が経営破綻に追い込まれる可能性が高いと指摘する。
◆コロナ後に変わった「何を飲むか」
根本には需要と供給のずれがある。外食機会が減ったコロナ禍以降、RTDと呼ばれる缶カクテルや低アルコール飲料が急伸。健康志向の高まりも重なり、感染終息後もバーやレストランに完全には客が戻らなかった。アメリカの成人に占める飲酒者割合は2025年に54%と過去最低を記録し、総需要の頭打ちがうかがえる。
生活費の高騰も業界を直撃した。少量生産で珍しい原料を使用するクラフトビールは高価になりがちで、消費者の購買意欲を後退させた。
また、飲みやすいラガーへ回帰する動きも指摘される。クラフト人気を押し上げたホップ感が強いIPAが常に選ばれるわけではなく、価格感度の上昇も相まって、手に取りやすいスタイルが再評価されている。
元ウォール・ストリート・ジャーナル記者のマーク・ロビショー氏はNYTのオピニオンで、突飛な商品名や過剰に刺激的な缶・瓶デザインが増え「ビールがビールらしくなくなった」と批判した。トレンドを追うあまりコアな品質や飲用シーンの設計が置き去りになったのではないかという問題提起だ。
◆生き残りの条件は「多様化×原点回帰」
ライフスタイル誌オーシャン・ロード・マガジンは、生き残りへ品ぞろえの多様化を提案する。先進的な醸造所はビールに加え、ノンアル飲料へのアルコール付加や炭酸飲料、低糖質飲料などを展開。ブルワリーパブやタップルームでも、フードの強化で客単価と再訪を狙う動きが出ている。
同誌は、いまは変化する消費行動と経済環境に対応するため、急速に方向転換を図らなければならない時代だとする。課題に適応しつつ、手作りの精神と地元重視というブーム前からの姿勢を維持できるかどうかが、クラフトビール業界生き残りの決め手になるだろうとし、ビールの大改革は、まだまだ終わらないと述べている。




