米国債が売られるとなぜ問題なのか? トランプ氏が“相互関税”を止めた理由
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トランプ米政権が強硬に推し進めてきた大規模な関税政策により、通常なら安全資産として買われるはずのアメリカ国債が大量に売られ、国債利回りの急騰と市場の混乱を引き起こした。関税政策の一時停止に舵を切らざるを得なかった理由の一つに、この異常事態があるとみられている。
◆異例の米国債売却の動き
アメリカ国債は世界の投資家にとって「安全資産」とされており、通常、株式市場が急落局面に入るとアメリカ国債を購入する。だが、トランプ政権の関税政策により逆に国債の大量売却が進み、債券市場から資金が流出した。その結果、長期金利の指標となる10年ものの国債の利回りは4日時点の3.99%から急騰し、一時、4.52%にまで跳ね上がった。
トランプ大統領が中国を除く国への「相互関税」について90日間の猶予期間を設けることを決断したことを受け、債券市場に安定の兆しが現れ始めたが、利回りはなお高止まりしており、10年ものの利回りは現時点で4.3%となっている。
◆国債売りによる悪影響
アメリカ国債の大量売却の影響は多岐に及ぶ。利回りの上昇は、企業や個人が資金を借りる際のコストに直接影響する。住宅ローンや企業の借入金利の上昇によって投資や消費活動が鈍化し、景気後退のリスクが高まる。政府の財政にも直接的なダメージを与える。政府が新たに発行する国債のコストが上がり、利払い費用が増す。現状でも余裕のない財政はさらに逼迫(ひっぱく)することになる。
米ブルッキングス研究所によると、米国債市場は日量約9000億ドル(約130兆円)という膨大な規模を持ち、世界の金融システムを支える土台となっている。そのため、「大規模な売却が続けば、金融システム全体への波及リスクが懸念される」とし、最悪の場合、一部の金融機関の信用不安や破綻につながりかねないと指摘する。
また、英ガーディアン紙は、今回の動きがイギリスで2022年に発生した「トラスショック」と類似しているとし、「市場は政治に対して明確な評価を下す」と述べる。アメリカ国債が信頼されなくなれば、ドルの国際的地位すら揺らぎ、グローバルな資本の流れにまで影響を与える可能性がある。市場からの「信認の低下」は、アメリカの財政運営にとって致命的なリスクであり、それがホワイトハウスの政策転換に影響を与えた可能性もあると報じられている。
◆「金融システムに影響なし」と強調も
ベッセント財務長官は、事態の沈静化に躍起だ。米ワシントン・ポスト紙によると、ベッセント氏は債券市場における売り圧力を「不快ながらも通常の借入金圧縮過程」と表現している。同氏はフォックス・ビジネスの番組で、ヘッジファンド業界での数十年の経験から同様の状況を何度も目の当たりにしてきたと語り、今回の出来事は「金融システム全体に影響するものではない」と強調した。
だが、ブルッキングス研究所は、「米国債市場は過去数十年間で大きく様変わりし、その結果として大規模なショックへの市場の耐性が弱まっている」との見方を示している。二転三転する関税政策の背景に、米国債市場への配慮があるようだ。




