米、景気後退懸念高まる トランプ関税が招く先行き不安

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 トランプ政権が実施した関税政策により、アメリカの株式市場が急落し、景気後退懸念が急速に高まっている。わずか1ヶ月前に過去最高値を記録した株式市場は一転し、アメリカの主要経済研究機関も景気後退リスクに警鐘を鳴らし始めた。

◆急転した市場心理
 2月19日に過去最高値を記録したアメリカの株式市場は、わずか3週間で様相を一変させた。S&P 500指数は約9%下落し、3月11日には主要3指数がそろって下落している。ナスダックは2年半で最悪の下落幅となった。投資家のリスク姿勢を示す米CNNの「恐怖・強欲指数」は、5段階中で最もリスク許容度が低い「極端な恐怖」の水準に突入し、数週間前の「中立」から大きく悪化している。

 各格付け機関も景気後退リスクの予測を引き上げている。JP モルガンは景気後退確率を30%から40%へ、ゴールドマン・サックスは15%から20%へ、ムーディーズ・アナリティクスは15%から35%へと引き上げた。アナリストらは、アメリカの政策が「成長から離れる方向に傾いている」と警告している。

◆関税政策による経済的影響は?
 混乱の原因とみられるのが、トランプ政権の関税政策だ。カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に20%の追加関税を課し、さらなる関税拡大も示唆している。11日には、カナダからの鉄鋼・アルミニウム輸入に50%の関税を課すと発表(後に撤回、当初の25%に)したことを受け、市場の売り圧力は強まった。

 アメリカ・ファーストの要の一つとなるはずだった関税は、むしろアメリカ経済に大きな打撃を与える可能性がある。ワシントン・ポスト紙はピーターソン国際経済研究所の分析を取り上げ、標準的なアメリカ家庭において、年間1200ドル(約18万円)以上の負担増になると報じている。BNPパリバのアナリストは、「報復措置を含む制御不能な貿易戦争になれば、企業マインドが急激に悪化する可能性があり、それが一定の規模に達すれば景気後退につながる」と警告している。

◆早くも実体経済に波及
 市場の混乱は、すでに実体経済にも影響を及ぼし始めた。2月、アメリカの小売業界における売上高は減少し、トランプ大統領の当選後一時上昇した消費者や企業の信頼感も低下している。デルタ航空は企業・消費者信頼感の悪化が旅行需要に影響していると警告し、利益見通しを下方修正した。

 一方で、失業率は依然4.1%と低く、2月も50ヶ月連続の雇用増加を記録しており、経済の回復力を示している。トランプ氏は米フォックス・ニュースのインタビューで、「我々はアメリカに富を取り戻している。それには移行期間が必要だ」と述べ、一時的な混乱は避けられないとの見方を示した。

 ただし、英BBC(3月12日)によると、市場関係者からは、政権の「予測不可能な方針」が不確実性を増大させていると懸念の声が上がっているという。

 関税政策の効果に自信を示すトランプ政権だが、足元では景気の下振れが懸念されている。

Text by 青葉やまと