2025年はファッション業界にとって試練 マッキンゼー調査報告書
経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーと、世界のファッション業界メディア「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion:BoF)」が定期的に発行する、ファッション業界に関する調査報告書『 The State of Fashion 2025(訳:2025年版ファッション業界の現状)』が公開された。
◆「あらゆる場面で困難に直面する」
2025年の世界のファッション業界は「あらゆる場面で困難に直面する」というのが、この調査報告書の結論だ。景気の後退、高インフレを受けて消費者が価格により敏感になっている点、格安コピー品(デュープ)の台頭、気候変動の加速、世界貿易の再編成といったさまざまな課題があるなか、業界の成長は昨年に引き続き鈍化傾向だ。
低成長の中身にも変化が見られる。近年、ラグジュアリーブランドが経済利益の増加をリードしてきたが、2024年はそれ以外のブランドが価値創造の中心を担うと予測される。地理的な観点では、成長を牽引(けんいん)するのはパンデミックから回復中の中国ではなく、インフレ率が低下し、観光客が増加している欧州、富裕層が強靭(きょうじん)なアメリカ、日本、インド、韓国といったアジア市場だと見られている。
また、業界の経営陣に対するアンケート結果も悲観的な見方が多い。2025年に消費者心理が改善すると予想しているのは20%である一方、業界の状況は悪化すると見ているのは39%。また消費者が価格にシビアになっている状況を踏まえ、売上を牽引するのは価格ではなく、販売数量になるとの見方だ。
◆機会を捉えるためには、新たな努力が必要
こうした状況を踏まえ、報告書ではいくつかの可能性を示す。たとえば顧客体験向上の観点で言えば、AI(人工知能)を活用したコンテンツ・キュレーションを通じて、ブランドや商品を発見しやすくすることが求められる。消費者の8割が、オンライン上に大量のブランドや商品があふれるなか、オンライン検索が購買の障壁となっているとアンケートに回答している。また、ターゲット層に関しては、若者よりも増加している50代以上が狙い目となる。
一方、ファッション業界の仕組み面の可能性については、リアル店舗における接客スタッフのトレーニングや購買プロセスのデジタル化などを通じて、ショッピング体験を改善することが一つ。ほかにも、オンラインのマーケットプレイスのビジネスモデルを見直し、品ぞろえを改善したり、既存顧客の客単価を上げるためのマーケティングに投資したりといった地道な努力を行うことなどが求められる。
スポーツカテゴリにおいては、ぼってりとしたミッドソールが特徴的なスニーカを展開するホカ(Hoka)やアシックスなどといったグローバル市場における新興勢力(チャレンジャー)が、ナイキやアディダスといった大手ブランドよりも経済利益を生み出しているといった事例がある。歴史が長いブランドは変革に苦労しているなか、チャレンジャーは差別化に積極的だ。
価格よりも量にシフトする傾向は、サステナビリティの観点においては好ましくない。グローバルなファッション業界が、モノで経済的成長を生み出すのではなく、新しいサービスや体験を提供するモデルにシフトすることが期待される。