なぜパリの観光客が減少しているのか? 観光業界の期待外れる

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 パリ五輪開幕まであと3週間に迫った。世界的に人気が高い観光地であるパリでの五輪開催となれば、相当な数の観光客が押し寄せるものと想像するだろう。ところが、実際には航空券もホテルも昨年より予約数が減少しており、観光業界の目算は大きく外れようとしている。

◆パンデミック以前の水準にほぼ戻っていた観光客数
 パリとパリを取り巻くイル・ド・フランス地域圏を2023年に訪れた観光客は4750万人以上だった。これは、同地域の人口の約4倍にあたる。2019年の5060万人にはまだ及ばないまでも、確実に訪問客数はパンデミック以前に戻りつつあった。

 パリを訪れる観光客が最も多い時期は、夏を挟む5、6月と9、10月だ。7、8月は文化イベントやスポーツイベントが休みになるため、幾分観光客数も減少する。それでも昨年の7、8月に当地域を訪れた観光客は、レコ・トゥーリスティック誌によると620~640万人に上り、2019年の660万人に迫る数であった。また昨年同時期の宿泊施設の客室稼働率は全体平均が76.6%、パリ中心地に限れば平均83.3%であった。

◆増加どころか減少の傾向
 このような傾向のなか、2024年の五輪開催により観光業界はさらなる飛躍を見せるはずと、誰もが考えたのも頷ける。だが、その予想を裏切り、観光客数はこの春から昨年の数を下回る傾向を見せている。

 ル・モンド紙(6/23)によると、最大の書き入れ時となるはずの6月最終週(24~30日)、パリのホテルの客室稼働率は平均63%だった。前年同時期の80~85%と比べるとその低さがわかる。しかも7月はさらに減少し、約50%となる見込みなのだ。

 観光客減少の傾向は、航空便の予約状況からも明らかだ。航空大手エールフランスと傘下の格安航空会社トランサヴィア・フランスは1日、今夏のパリ発着便の旅客数が平年同時期の平均を下回ることを発表した。パリ観光局によれば、5月後半から6月にかけて、国際航空便を利用してパリを訪れる人は、すでに7.3%減少していたが、7月1~25日の減少率は14.8%になると見られている。これを受け、エールフランスは6〜8月の売上高が予想より1億6000万~1億8000万ユーロ(約279~314億円)少なくなるとの見通しを示した。

◆遊覧船の客も4割近く減少
 観光客の減少を肌で感じているのは、観光施設も同様だ。たとえば、セーヌ川の遊覧船バトー・ムーシュは、例年の夏なら1日1万人の利用客を見込める人気を誇るが、今年は6月頭から1日6000~6500人の利用客しかいないという(ル・フィガロ紙、7/2)。

 観光客減少の理由の一つは、天気にもあるだろう。この春のパリはうんざりするほど雨が多く気温も一向に上がらない日が続いた。だが、それよりも大きな要因は、五輪開催自体にあると考えられる。それはなぜか?

◆ホテル、交通機関、美術館、税金、軒並み値上げ
 第一には宿泊施設などの値上げだ。すでに1年前からメディアが再三取り上げているように、五輪期間、パリのホテルは宿泊代を大きく値上げした。ル・ポワン誌の昨年8月の報道によれば、6倍の値上げは普通で、施設によっては15倍の値段設定も出ていた。

 昨年秋の調査では、今年7月のパリのホテル代(1泊平均)は、前年同月の169ユーロから4倍以上の699ユーロに上昇すると予想されていた。これには、パリの観光担当オカール副市長も懸念を表明。(ウェスト・フランス紙

 また、イル・ド・フランス貿易産業組合のデルヴォー会長も五輪期間のホテル代の大幅な値上げに公的に異議を唱えた。各界からの反発に加え、予約数も伸びないことから、ホテルの値上げ率は現在では2~2.5倍に落ち着いていると同会長は語っている。(RTL、5/3)

 主な観光施設も今年に入って入場料を引き上げている。筆頭はルーブル美術館で、今年の1月15日から17ユーロ(約3000円)だった入館料を22ユーロ(約3800円)に値上げした。同じくベルサイユ宮殿、ロダン美術館、凱旋門、ピカソ美術館なども、昨今の物価高を理由に値上げしている。

 行政もまた税を引き上げ、今年の1月からイル・ド・フランス地域圏の宿泊施設の滞在税は3倍になった。ホテルランクが高いほど滞在税も高くなるため、たとえば5つ星ホテルの滞在税は14.95ユーロ(約2600円)に上る。

 さらに、パリの公共交通機関は、五輪とパラリンピックの期間にあたる7月20日~9月8日の間、地下鉄や路面電車、バス、郊外列車のチケットの値段を引き上げることを決めている。地下鉄やバスの1回乗車券2.15ユーロ(約370円)は4ユーロ(約700円)となる予定だ。

◆トラブル回避の心理、安全への不安
 これだけ値上げが重なれば、パリ訪問の意欲がそがれても不思議ではないだろう。これらの値上げによる経済的な負担に加え、五輪による交通規制で、自由にパリ市内を移動できないのではという不安や、テロ事件への危惧なども外国人観光客の足を鈍らせている。

 イル・ド・フランス地域圏の住民についても同様で、五輪時期のパリと、パリ発着の移動を避ける傾向が顕著だという。これは、五輪開催による混乱や混雑を避けたい心理の表れだろう。

Text by 冠ゆき