なぜ「オレンジジュース危機」が起きているのか? 業界は代替果汁を検討

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 スーパーのオレンジジュースの価格が高騰している。日本だけでなく、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど、世界的に同じ現象が起きている。原因は、世界最大のオレンジ生産地ブラジルでの不作だ。朝食の定番とされているオレンジジュースは高級嗜好(しこう)品になってしまうのだろうか?

◆オレンジ世界最大生産地ブラジルで不作続く
 オレンジュースの価格は、長引く供給制約のなかで過去最高値を更新している。業界は危機的状況に追い込まれ、一部のメーカーは代替果物の検討を余儀なくされている。

 朝食の定番であるオレンジジュースの価格は、近年急速に上昇している。アメリカにおけるオレンジジュースの主要生産地であるフロリダ州の生産量減少と、ブラジルの主要生産地における異常気象が要因になっている。

 世界では毎年約5000万トンのオレンジが生産され、その約3分の1がブラジルで生産されている。ブラジルはまた、世界最大のオレンジ果汁輸出国でもあり、世界供給の約7割を生産している。

 そのブラジルのオレンジ産地では最近、開花期の極度の干ばつと酷暑によるストレスに加えて、アジア柑橘類キジラミと呼ばれる小さな虫が媒介する治療法のない緑化病の発生が深刻な状況になっている。

 その結果、2024-25年度のブラジルのオレンジ生産量は24%以上減少すると予測されており、これは1980年代後半以来の最小収穫量となる(ロイター)。

 ブラジルの状況に加えて、アメリカ、イスラエル、スペイン、アルゼンチンなどほかの主要オレンジ生産地での生産量減少も、供給不足に追い打ちをかけている。

 こうした要因が相まって、冷凍濃縮オレンジ果汁の先物価格は5月末、史上最高値を記録した。

 国際通貨基金(IMF)のデータによると、オレンジの世界価格は4月に1ポンド(約0.45キロ)あたり3.68ドルを記録し、1年前の2.76ドルから約33%上昇した。また、インフレ危機が始まる直前の2021年1月と比較すると、210%の上昇となった。

◆豪でも リンゴ、マンゴーなどのブレンドが主流か
 オーストラリアではかなりの需要があるため、国内消費の約半分を冷凍濃縮オレンジ果汁の輸入に頼っている。豪業界団体によると、輸入の約8割はブラジル産で、次いでイスラエル産が約1割である。

 オーストラリアの消費者は、欧米の消費者ほど深刻な影響を受けていない。というのも、地元のオレンジ生産者が国内市場の供給ギャップをいくらか埋めることができているからだ。しかし、ブラジル産オレンジ濃縮果汁への過度の依存は、いずれオーストラリア国内での供給不足につながると見られている。

 このような状況は、消費者や生産者に代替品の選択を促す可能性がある。朝食用飲料市場では、オレンジ果汁にリンゴ、マンゴー、パイナップルの果汁をブレンドした製品が、コスト面において消費者にとってますます魅力的になるかもしれない。

 みかんは、その味と栄養価がオレンジ果汁に近いことから、特に有望な代替品となる可能性がある。

◆アメリカでもオレンジ不足 みかんが救世主に
 フロリダは一連のハリケーンに加えて、緑化病にも見舞われている。

 フォックスニュースによると、これまでオレンジジュース・メーカーは、果汁の在庫を冷凍保存することで長期的な品不足を回避してきた。しかし、その冷凍ストックさえも、3年間の不足のために散逸しつつある。

 フィナンシャルタイムズ紙によると、国際青果物ジュース協会(IFU)のキース・クールズ会長は「これは危機的状況だ。大寒波や大規模なハリケーンのときでさえ、これほどの事態は見たことがない」と言う。同氏によれば、オレンジ不足の長期的な解決策は、栽培地域の気候変動に強いみかんからオレンジジュースを作ることかもしれないという。

 業界はすでに実験を行っている。オレンジ果汁の9割を輸入している日本では、大半がブラジル産だが、円安によって供給不足が深刻化し、輸入コストがさらに上昇している。スーパーマーケットチェーンやセブン-イレブンを経営するセブン&アイ・ホールディングスは、みかんの国内供給に目を向け、みかんとオレンジジュースの商品販売に切り替えた(フィナンシャルタイムズ)。

 CNBCニュースによると、調査会社ミンテックの商品市場データアナリスト、ハリー・キャンベル氏は、オレンジ果汁の価格高騰により、メーカーやブレンダーは代替果汁を検討し、状況に適応せざるを得なくなったと言う。

 同氏は「オレンジ果汁への依存度を下げるため、多くのメーカーはオレンジ果汁量を減らし、洋ナシ、リンゴ、グレープなどほかの果汁を増やすなどして、ブレンドに入れる果汁量を変更していくだろう」と述べ、現在の状況は長期的に続くと予想する(同)。

 オレンジ濃縮果汁は、化粧品、洗剤、ビタミン補助食品、飲料ブレンドなど、幅広い商業用途にも使用されている。そのため、ほかのさまざまな製品においても、大幅な供給途絶と価格高騰が起こる可能性がある。

Text by 中沢弘子