欧州でリモートワークしたい? イタリア4月からノマドビザ開始 門戸開く国々
新型コロナのパンデミックによって、世界的にテレワークが浸透した。テレワークの場所は、自宅近くのカフェや地方の観光地だけでなく、今や海外にも広がっている。海外のフリーランスワーカーやデジタルノマドワーカー向けにビザを発給する国が倍増しているのだ。4月からイタリアも、外国人のノマドワーカーに門戸を開いた。
◆イタリア、デジタルノマド・ビザ解禁
イタリア政府は、海外のノマドワーカーおよびフリーランスワーカーを対象にした就労ビザ「デジタルノマド・ビザ(査証)」を発給する方針を明らかにした。4日より申請受付を開始した。
この新しい法律により、欧州連合(EU)のパスポート(またはその他のビザ)を持たない人でも合法的にイタリアに滞在し、長期的に働くことができるようになった。通常、滞在が制限される90日ルールを回避することができる。
イタリアのデジタルノマド・ビザは、EUのなかでも取得が容易ではない。申請者を高度なスキルを持つ労働者に限定しているからだ。高度なスキルワーカーについては、「自営業者として、あるいは企業の経営者や従業員として、イタリアに居住していなくても遠隔地で働くことを可能にする技術的手段を活用し、高度な資格を要する労働活動を行う者」と定義している。この法律は移民法第27条に基づき導入された。
このビザを取得するには、イタリアの医療費に関連する経済的な障壁もある。申請者は自営業者か企業の給与所得者でなければならず、年俸は最低2万8000ユーロ(約470万円)が要求される。ただし、リモートワークによる収入でなければならないとは法律で規定されていない(どのような収入源からでもよい)。
イタリア市民権や在留資格の取得を専門とする国際法律事務所Giambroneの移民部門の責任者であるエルゼ・オブリキテ氏によると、この法律は、自営業者を「デジタルノマド」、従業員を「リモートワーカー」とみなし、両者の申請要件はほぼ同じになるという(コンデナスト・トラベラー、4/12)。
申請者は、就学年数3年以上の大学の学位または専門職資格を保持しているか、特筆すべき経験を証明する文書を提示しなければならない。また、リモートワークを希望する分野ですでに6ヶ月以上の実務経験があることを証明する必要がある。
そのほか、イタリア国内での滞在先の確保や医療保険への加入も必要だ。医療保険には個人で加入するほか、保険料年間2000ユーロ(約34万円)の同国の国民健康保険に加入する方法もある。家族の同伴も可能とされているが、判断は地元警察に委ねられている。過去5年間に刑法上の罪で有罪判決を受けている場合は、申請することができない。
申請は、入国前に居住国のイタリア大使館で行う。ビザの有効期限は1年間だが、入国後に更新できる可能性もある。イタリア入国後8日以内に滞在許可を申請しなければならないほか、自営業者は同国の付加価値税(VAT)番号を取得し、税金の納付方法についても把握しておく必要がある。許可された申請者は、家族の滞在許可証の申請が可能になる。
◆ノマドビザ発給国50ヶ国以上に
デジタルノマド・ビザまたは同様の制度を提供する国は50ヶ国以上にのぼり、イタリアに加え日本や韓国も最近開始した。ノマドガールによると、2021年2月時点でデジタルノマド・ビザを発給する国は21ヶ国だったが、現在58ヶ国に拡大。今後も増加が予想される。
新型コロナ感染症の大流行により、多くの国が観光収入の深刻な落ち込みに見舞われた。この観光客減少への対応として、各国はデジタルノマドを積極的にターゲットにし始めた。2週間滞在する観光客が26人いるよりも、12ヶ月滞在する観光客が1人いた方がいいという考えだ。
在宅勤務が新しい常識となり、海外からリモートで働くことも容易になった。裕福なデジタルノマドやテックパット(遠隔技術労働者)という新しい階級も生まれ、この新しいビザの対象者として積極的にターゲットにされている。
デジタルノマド・ビザを発給する国としては、付加価値税(VAT)、輸入関税、申請料などの税収が高額消費者のデジタルノマドから得られる一方、医療費や社会的コストは低く抑えられる。また、高学歴の人材が国外に流出する頭脳流出に苦しんでいる国にとっては、頭脳を逆輸入する手段でもある。
税制上の優遇措置もある。所得税を全額課税する国もあれば、所得控除や特別税率が適用される国もある。ほぼすべての国で、民間の健康保険に加入する必要があるが、社会保障費を支払う必要はない。(ノマドガール)
◆ヨーロッパでビザを取得しやすい国トップ10
英誌タイムアウトは、最低給与要件、申請プロセスの仕組み、ビザの費用などを基に、EU諸国におけるデジタルノマド・ビザ取得の難易度を調査した。それによると、ルーマニアがヨーロッパで最もデジタルノマド・ビザを取得しやすい国であることがわかった。必要な月給は国内平均の3倍の3700ユーロ(約62万円)で、国としてはごく標準的な額だ。ルーマニアでのリモートワークをオンラインで申請すれば、わずか2週間以内に返事が返ってくる。
2位はクロアチア。ビザの申請はオンラインでも領事館でも簡単にできるが、レジデンシーカード(40ユーロ)やオンライン管理費(45ユーロ)など、途中で支払う少額の手数料がいくつかある。月給の最低要件は2539ユーロ(約43万円)と比較的低く、それほど多くの要件はないが、申請の一環として宿泊施設を手配する必要がある。
以下の順位は、3位マルタ、4位ギリシャ、5位ノルウェー、6位スペイン、7位ハンガリー、8位エストニア、9位ポルトガル、10位チェコとなっている。
アンドラ、モンテネグロ、ラトビアなど、近々同様のビザを導入する予定のヨーロッパ諸国もあるが、まだ正式に開始されていないため、含まれていない。ドイツも公式にはデジタルノマド・ビザを提供しておらず、「フリーランサービザ」と呼ばれるものを提供している。(タイムアウト誌)
もしあなたがヨーロッパに移住し、リモートで働き、シェンゲンエリアを旅行する権利を得たいと考えているなら、デジタルノマド・ビザはまさにうってつけかもしれない。