欧州はもう中国製EVに抗することはできない? 調査開始、関税検討も
◆あっという間に世界をリード 国家総動員が成功をもたらす
MITテクノロジー・レビューは、ほとんどの人が何が起きているか理解できないうちに、中国はEVの製造と購入で世界をリードするようになったと指摘。今や世界最大のEV市場で、2022年の年間販売台数は680万台(PHEVを除くと約537万台)となり、アメリカの約80万台を大幅に上回る。
リヒテンシュタインのシンクタンク、GISの専門家、張俊華氏が紹介する2006年のBMWの調査報告書によれば、産業育成に関し、中国は従来、外国企業の国内参入を認める代わりに新しいノウハウを獲得するというアプローチを取ってきた。しかしこのやり方が進歩をもたらしていないと自動車専門家が主張し、そこで、一気に欧米の競合他社を飛び越えられる可能性がある、燃料電池車開発を目指すことになった。
ところがこの技術の開発は中国の研究チームにとってあまりにも困難だったため、化学電池によるEVに軸足を移した。これが「中国製造2025」と呼ばれる政府の重商主義戦略にぴたりとはまったという。中国政府はEVが国内市場で競争力を持ち、環境に配慮した製品を好む欧米に大量に輸出できると確信。ここ数十年EV普及を強力に推進してきた。高速鉄道や太陽光発電の場合と同じように、国家戦略のもと、国家総動員体制で取り組んだ結果が今の成功だと張氏は指摘している。
対照的に、BMW経営陣は調査完了時には中国の新トレンドにあまり関心を示さず、中国市場に伝統的な高級車を提供すれば、利益を上げ続けることができると考えていたという。ドイツ自動車業界全体が、中国市場を食い物にする「快適なグローバル化」に慣れっこになっていたと張氏は指摘。今や欧州の自動車産業は中国製EVに驚くばかりだとしている。
◆EUは関税で対抗か 時すでに遅し?
中国のEVに関する調査により、おそらくEUは中国からのEV輸入に関税をかけることになるだろうとEIUは見ている。しかし、調査は着手から実際に実施するまでに最大1年ほどを要し、結果が出るまでにはさらに長い時間がかかるかもしれない。加えて、中国の報復を恐れ、貿易制限にEU全体の支持を確保することも困難になりそうだとし、関税導入はまだ先になるという見方を示した。
張氏は、中国のEVにとって欧州は中東以外で唯一の重要な市場で、価格競争力では欧州企業は太刀打ちできないと見ている。今回の補助金調査により多少の時間稼ぎはできるが、中国の重商主義的姿勢は変わらないと指摘。将来的には中国のEV企業が欧州に投資することになるとし、調査の結果はほとんど実を結ばないだろうと見ている。
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