ロシア富豪が消えた? 南仏コート・ダジュールに見る経済制裁の影響
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから初めての夏。ウクライナでの戦闘は続いているのに、欧州のバカンス客は3年ぶりに各地に押し寄せている。ドイツの北海やバルト海、イタリアのナポリなどは復活祭や聖霊降臨祭休暇の4〜6月にはすでにホテルが取れないほど、コロナ禍で抑圧されたヨーロッパ人の旅行熱は再燃していた。それはロシア人富裕層も同じだろう。しかし、オリガルヒの資産凍結や入国拒否によって、オリガルヒが闊歩していた高級保養地からロシア人が消えたとも言われる。大きな打撃を受けることが心配されていたフランスのコート・ダジュールから現地の様子をレポートする。
◆嘆くレストラン経営者
コート・ダジュールのフェラ半島周辺は、古くからロスチャイルドや著名作曲家がバカンスに訪れていた風光明媚な場所で、ギリシャの船舶王オナシスやハリウッドスターたちもこぞって別荘を持ったり、Mr.ビーンで知られるローワン・アトキンソン主演の『ジョニー・イングリッシュ』の撮影も行われたりと、知る人ぞ知る名所だ。
ペレストロイカ以後はロシア人が増え始めたというが、20年以上毎年訪れている筆者の印象では、それがここ10年ほどでより顕著になり、ロシアアートのギャラリーやロシア食料品店ができたり、街中でハイソな風貌の人を見ると、ロシア語が聞こえてくるのが当たり前になったりしていた。地元の美味しいレストランは姿を消し、味の割には値段の高い「クール」なレストランが生き残る。そんな有名レストランのうちの1軒「アフリカーン・クイーン」も行くたびに違和感を覚えていた店だが、今夏オーナーがビルド紙の取材に応じ、「ロシア人は皆いなくなってしまい、別荘には誰もいない。この戦争は職場も奪っていく」と嘆いている(8月22日付)。アンティーブのクロエ城を2億ユーロで「衝動買い」した有名なオリガルヒ「ロマン・アブラモヴィッチも顧客で、昼間の1テーブルだけで1万ユーロ以上稼ぐこともあった」と振り返る。「経済制裁リストには100人以上のオリガルヒが名を連ねていたが、彼らは財産を失うことなく、ただコート・ダジュールから姿を消しただけ」という。