2008年から2022年、2つの五輪の間に中国はいかに変貌したか

Shen Hong / Xinhua via AP

 前回のオリンピック開催年である2008年以降、中国は歴史的な変貌を遂げてきた。国はより豊かになり、軍事力はさらに強化され、そして公然と強硬路線を維持している。

 2月開幕の冬季五輪に向けて準備が進められる一方で、習近平政権は国際社会に影響力を行使できるような大きな力を得てきた。貿易や技術盗用に関連する問題、台湾や香港、国内のイスラム教徒少数民族をめぐる問題に対して、アメリカなど他国の政府から寄せられる非難の声に抵抗の姿勢を示している。

 いまや中国の経済規模は3倍にまで拡大した。与党である中国共産党は、この富を利用して「技術大国」を目指し、アメリカを除くどの国よりも多くの予算を軍事費に充てている。

 香港浸会大学で中国政治を研究するジャン・ピエール・カベスタン氏は「2008年が転換期でした。この年を機に中国は強硬路線を進み始めたのです」と述べている。

 北京の空に花火が打ち上げられた2008年8月、中国は世界第2位の経済大国であった日本をまさに追い抜こうとしていた。中国は史上最も豪華な五輪を開催し、祝杯をあげた。

 海外メディアはこの大会を、第2次世界大戦からの日本の復興が象徴的であった1964年の東京五輪と重ね合わせ、中国の「デビューお披露目パーティー」と称した。影を潜めたまま国の発展に注力していた30年間を経て、中国政府は経済的かつ政治的勢力として国際舞台に登場する準備を整えた。

 習政権が発足した2012年、「より戦略的な権利」や軍事的地位、さらなる国際的役割を求める文書の中で、与党は強硬的姿勢を強めていく方針を表明した。

 習政権は自国の一党独裁体制が脅威にさらされていると感じ取り、世界的指導者として本来果たすべき役割から中国を締め出そうとしているとアメリカ政府を非難している。与党は社会やビジネスに対する統制を強化し、有害な影響が危惧される他国からの情報を排除するためにインターネットにフィルターをかけるなど検閲を行っている。そして中国政府が自国の一部であると主張する民主主義の島、台湾を脅かすために、さらに多くのことが行われている。

 北京にある中国人民大学で国際関係を研究する時殷弘教授は「アメリカやその同盟国であるオーストラリア、日本、英国からの圧力を受け、中国がこのような行為を余儀なくされていることはおわかりでしょう」と話す。

 習国家主席は、自身の権力支配が中国全土に及ぶことを見据えている。2022年後半に開催予定の重要な政治集会では、慣例を撤廃し、与党党首として3期15年目への続投が決定される予定である。それに先立ち、国家主席の任期制限を廃止するための憲法改正がすでに行われている。

 カベスタン氏は「かつては世界に向けてより開放的であった中国は、いまではきわめて偏執的になっている」と指摘する。

 台湾付近を飛行する中国政府の軍用機は増加の一途をたどっている。また、アメリカ本土への攻撃が可能な核ミサイルや、軍事力の及ぶ範囲を中国沿岸から拡大するための航空母艦や武器などの開発に資金がつぎ込まれている。

 時教授によると、中国の指導者はあらゆる領域において自国防衛の必要性を感じているという。2018年当時のドナルド・トランプ前政権による対中報復関税や、アメリカのテクノロジー分野へのアクセス規制、南シナ海などの領有権を主張する中国政府に対抗を示す日本やオーストラリア、各国政府による軍事同盟などが例として挙げられている。時教授は「中国と他国間の関係性が良好でないのならば、それは他国が中国に危害を加えているからです」と言う。

 2008年の夏季五輪大会では、首都を整備する名目で430億ドルが投じられた。人目を引く「鳥の巣」スタジアムをはじめ、複数の競技会場が建設された。地下鉄が新たに敷かれ、道路が改良された。そして、中国全域にある数千もの公園には運動器具が導入された。

 世界の中でもきわめて大気汚染の深刻な都市である首都では、推定費用100億ドルをかけて「ブルースカイ」キャンペーンが打ち出された。発電所や製鋼所などの施設は閉鎖もしくは移転され、交通規制が敷かれた。

 習政権は現在、債務や公害などこれまでのツケと対峙しているところだ。また、前政権からの長期にわたるキャンペーンの真っ只中でもあり、輸出や投資ではなく、個人消費に支えられた持続可能な経済成長を実現するための取り組みも行っている。

 中国政府は、1950年代のスローガンにならって名付けられた「共同富裕」という定義の曖昧な構想を打ち出した。それに基づき、政治状況を不安定化させる、中国で多数派を占める労働者階級と超富裕層エリート間の所得格差を縮小させるための対策を講じている。

 イーコマース(電子商取引)などの分野において成功を収めた民間企業には、中国共産党の取り組みに投資するよう圧力がかけられる。コンピューターチップなどの製品を開発する技術サプライヤーとして、アメリカやヨーロッパ、日本への依存度を下げることを目指す。このような企業は、地方での雇用創出など、政治的構想の推進を請け負う。

 習国家主席をはじめとする指導者らは、国営の銀行や石油製造業者、通信事業会社などが「経済の中核をなす」としつつ、競合する外資系および民間企業にも広く市場を開放すると公言している。自動車製造業界における外国資本比率の上限撤廃など、段階を踏んだ対応にもかかわらず、グローバル企業が将来有望な技術やほかの分野から締め出されていると経済団体は訴える。

 1月17日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでのオンライン会議に出席した習国家主席は「中国は世界に向けて開放を継続する」と述べ、「すべての企業が法の前で平等な地位と公平な機会を得られるように約束する」と誓った。

 習国家主席はアメリカ政府による「覇権主義的ないじめ」について苦言を呈し、同政府は「冷戦思考を捨てる」べきだと痛烈に批判した。

 2月4日から始まる冬季大会を前に選手や報道関係者が中国に到着する一方で、同国の指導者は低迷する経済成長を底上げしようと手立てを講じている。新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための取り組みを進め、また、数百万もの雇用を支える不動産開発業者に対し、中国政府が危惧している恐ろしいほど膨大な債務の削減を迫っている。

 中国は2020年の新型コロナウイルス感染大流行からいち早く回復し、同年、主要国のなかで唯一プラス成長を示した。しかし2021年後半、中国政府が債務の締めつけを行ったことで経済成長は鈍化し、不動産販売と建築業界が不況に陥った。

 2021年の経済成長率は前年比8.1%と強い伸びを示したものの、第4四半期の成長率は前年同期比4%へと落ち込んだ。金利引き下げなどの金融刺激策による効果が出るまで、成長率はさらに落ち込むと専門家は予測する。世界銀行と民間エコノミストは、2022年の成長率は5%程度まで下落すると予測するが、それでも世界で最も高い成長率になるだろう。

 オックスフォード・エコノミクスのトミー・ウー氏は「2022年は経済的な安定が焦点になる」と報告書に記している。

By JOE McDONALD AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP