美容に目覚める日本の中高年ビジネスマン オンライン会議で見栄えよく

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 新型コロナウイルスの影響で、日本では多くの企業が破産に追い込まれている。しかし、東京で男性専用のヘアメイクアップサロンを経営する手塚拓海氏は、顧客層はむしろ広がってきたと感じている。

 手塚氏が営むサロン「イケメン製作所」には、コロナ禍以前には化粧品にほとんど関心を示さなかったものの、オンライン会議で自分をよりよく見せたいと願う40代から60代のビジネスマンが多く訪れている。

 パーソナルケア業界大手、資生堂が手がけるメンズメイクシリーズのなかには、コロナ禍で2桁の成長を遂げた商品もあるという。担当者が示した要因も似通ったものである。オンライン会議において、画面のなかの自分の顔と何度も向き合うことになった男性が、見た目の改善を目指しているというのだ。

 思い切ったイメージチェンジを好む若い世代とは異なり、中高年のビジネスマンは、メイクによって見栄えが少し良くなることを期待しているという。

 手塚氏は、「以前はお客様の大半が10代から20代の男性でした。リモートワークの導入が進んだ結果、いまではビジネスマンがずいぶん増えました。40代、50代、60代の男性は、メイクの必要に迫られてサロンにお越しになります」と話す。そのきっかけとして、自宅からのオンライン会議中に自分の顔を目にする機会が増え、見た目の印象を意識し始めたことが挙げられる。

 男性向け美容業界は、国内でのシェアを広げつつある。調査会社の富士経済グループによると、男性用化粧品市場は6000億円規模だった2018年から、2019年には6230億円を見込むほどに成長を遂げたという。

 手塚氏によると、中高年層のビジネスマンは、20代から30代の若年層と比較して消費する金額も大きい上に、より頻繁にサロンへ通う傾向が強いという。

 先日、顧客の一人である上地氏(44)は初めて、メイクアップのために手塚氏のサロンを訪れた。まぶたのメイクアップを申し込み、ファンデーションを顔に塗った。メイクアップアーティストが眉毛を丁寧に整え、鼻筋と顔の輪郭に茶色のシャドウパウダーを入れた。上地氏は鏡のなかの自分を見ながら、「これは一体誰なのでしょうね。見た目の変わりように驚きました」と感想を述べる。

 世界でも有数の老舗化粧品会社である資生堂は、2021年3月、オンラインで使う男性用メイクフィルターの無料提供を始めた。利用者はこのアプリによって、BBクリームやファンデーションなどの男性化粧品を使っているかのように見せることができる。

 2020年に資生堂は、Zoomなどのオンライン会議ツールとして女性が使用するためのメイクフィルターの提供を開始した。それを受けて同社のソーシャルメディア公式アカウントには、男性向けのフィルターを求めるビジネスマンからのコメントが殺到した。

 資生堂のメンズケアブランド「ウーノ」は、男性化粧品の顧客ターゲットを、20代前半から40代へ広げるよう取り組みを進めている。

 ウーノのアシスタントブランドマネージャーを務める松尾氏は、「新型コロナウイルスがもたらした新たな生活様式により、ビジネスマンはこれまで以上にスキンケアに意識が向くようになったのだと考えます。コロナ禍でも成長率は2桁に達しています」と述べる。

 2020年、日本のコスメストア「アットコスメトーキョー」は、原宿駅前に店舗をオープンした。メンズおよびユニセックス向けメイクアップアイテムのみを扱う専用フロアが設置され、男性でも化粧品を購入しやすい作りとなっている。

 同店舗を訪れた美容師の山下氏(24)は、普段から化粧品を使っている。同氏は、「なかなか気軽に立ち寄ることができないと、化粧品を購入できない男性もいます。このようなフロアができてうれしく思います。ただ、専用コーナーをもっと広げてほしいです。さらに気兼ねなく立ち寄ることができますから」と話す。

By CHISATO TANAKA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP