インドがRCEPから離脱した理由、復帰の可能性は? モディ政権の方針転換
もちろん、インドの輸出企業がすでに成熟し、国際競争力を備えていれば、RCEPへの参加は大きなチャンスとなっていたはずだ。しかしながら、インドの製造業は発展途上であり、農業もそのほとんどが競争力のない零細・小規模農家だ。ビジネス環境の改善や産業構造の転換など優先的に対処すべき課題は多く、RCEPの恩恵を十分に享受するには「時期尚早」という見方もできる。
また、6月に発生したラダック衝突で印中関係の悪化が進むなか、RCEPは地域内における中国の経済・政治的影響力を拡大させる可能性が高く、中国と南アジアの覇権を争うインドとしては慎重にならざるを得ない側面もある。
◆RCEPからの離脱は孤立を招く?
一方でインドの識者などからは、RCEPからの離脱はコロナによる経済低迷を加速させるとともに、広大な自由貿易圏から外されることで「孤立を招く」という懸念も出ている。たとえば、RCEP加盟国の企業が中国から他国に生産拠点を移すとしても、インドではなく、加盟国から候補地を選択するようになり、長期的にはインドの国際競争力を後退させる恐れがあるというものだ。
こうした意見に反論するかのように、モディ政権は目下、アジアから米国、欧州に軸足を移し、他国との接続を維持しようとしている。11月だけで欧州連合(EU)、デンマーク 、イタリア、ルクセンブルクとバーチャルサミットを実施するなど、米国やEU、英国などと自由貿易協定締結に向けた交渉または交渉再開への準備を加速させている。
また、インドはバランスのとれた貿易を実現させるには、発効済みの貿易協定を見直し、更新することも必要であると考えているようだ。インドのピユシュ・ゴヤル商工相は過去の貿易協定交渉では「不公平な扱いを受けてきた」と不満を述べており(フィナンシャル・エクスプレス紙、9月10日付)、今回のRCEPからの離脱は「インドは同様の失敗を繰り返さない」という内外への決意表明でもあるのかもしれない。
いずれにせよ、交渉から離脱後、新型コロナによる経済的打撃や社会不安、国境問題による中国への不信といった想定外の要素が新たに加わったことで、インドはますますRCEPと距離を置くようになった印象がある。現状ではインドが要求を下げてまでRCEPに復帰するとは思えず、どちらかと言えば、米国が復帰した場合(※復帰は未定)の「環太平洋経済連携協定(TPP)」に意識が向いているのではないだろうか。
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