「温泉も安全保障」の外資規制強化に、海外経済メディアの反応は?
♦︎温泉も安全保障? 海外紙が皮肉
今回の制限厳格化は諸外国の動きとも一致しており、とくに日本独自の規制というわけではない。英経済紙フィナンシャル・タイムズ(5月9日)は、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなどがすでに海外投資家の管理を強化してきたと伝えている。欧州議会は2019年、おもに中国人投資家による重要インフラへの投資を警戒し、EU域外からの投資を規制する新たな枠組みを導入した。
しかし、日本の新たな規制についてはその対象範囲が広すぎるため、政府の意図をめぐり混乱も起きている。規制対象に温泉リゾートの運営会社など、およそ機密性の高い産業とは思えない企業が含まれるためだ。同紙は「温泉、万年筆、野球場は日本の国家安全保障の中核であり、海外投資家は手続きを必要とする」と皮肉まじりに報じている。対象企業には、スーパー銭湯運営の極楽湯、リゾートシェアのリゾートトラスト、そして東京ドーム運営会社などが含まれる。
経済・金融情報を配信する米ブルームバーグクイント(5月13日)は、「建前としては、こうした規制は国家の安全を保証することを意図している」としたうえで、温泉運営や万年筆メーカーなどが保護対象リストに名を連ねる点に首を傾げる。対象企業の多さも問題だ。トヨタやソフトバンクなど大手が規制対象に含まれ、東証上位10銘柄のうち7銘柄が該当、時価総額ベースでは一部上場株式銘柄のうち40%を占めるほど対象は広範囲に及ぶ。記事が冠する「巨大ファンドよ、家に帰れ——日本は扉を閉ざしつつある」とのタイトルからは、今回の規制へのきわめて批判的な姿勢が感じられる。
♦︎実質的な締め出しか
政府としてはあくまで安全保障の観点を強調しており、海外資金の流入を不必要に妨げる意図はないとの立場だ。ロイター(5月8日)は法案が国会を通過した2019年11月時点での麻生財務相の発言を引用し、安全保障の観点から、重要な技術と特許を保護する目的があると説明している。
しかし実際のところ、新たな規制は経営への関与を大幅に制限するものだ。安全保障の侵害を意図していなくとも、株主として社の方針に意見することで利益の最大化を図ってきた海外のアクティビスト投資家の行動は、今後大幅に制限されることとなる。一例としてフィナンシャル・タイムズ紙は、ソニーに半導体部門の分離を迫ってきたダニエル・ローブ氏の試みなどをあげている。同紙は今回の規制強化について、「日本における海外からの株主アクティビズムの運命を左右する力を、財務省に与える」ものだと論じている。
ブルームバーグクイントはより厳しく、保護というより外国人投資家の締め出しに相当すると述べている。複雑な例外規定とあわせ、「結果として、オープンだった市場にうんざりするようなハードルを追加」するものだと批判を寄せる。事前申請が許可されれば1%以上の株式の保有も認められるが、「投資よりかなり前に承認を得ようとしてタイミングを逸したいなどと、誰が望むものか?」と制度の実効性に疑問を呈する。現在日本の株式市場の3分の1近くを海外資金が占めているが、投資先としての魅力の低減が懸念される。「どれほど頻繁に失望させられようとも、日本は常に海外投資家たちの意識のトップの位置を占めてきた。今後はその妥当性を説明することが難しくなるだろう」と記事は惜しんでいる。
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