世界最大目指すイスタンブール新空港、未完成での開港の陰に数々の懸念
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、15年の間トルコを自らの指揮下に置き、多数の大規模なオープニングセレモニーを開催してきた。10月29日、エルドアン大統領は価値ある自らの業績の1つとして、イスタンブール新空港の開港式を実施した。同空港の建設は、労働の権利、環境問題、および、トルコの弱体化した経済などの懸念にも決して屈することなく敢行された巨大プロジェクトだ。
エルドアン大統領は、トルコ共和国の建国95周年となる記念すべき今年、最終的には世界最大の航空輸送拠点となることを強く宣言し、このイスタンブール新空港を開港した。この日の開港式は、あくまでも象徴的な式典の域を出ない。というのも、この新空港では数日後に一部のフライトの発着が行なわれるのみで、空港機能の本格的な稼働開始は早くても今年末となる予定だからだ。
エルドアン大統領が指定した10月29日の期限までに空港の建設を完了するため、数万人の労働者が急遽駆り出されてきた。9月には、劣悪な労働環境や建設中の事故死が何十件も発生したことに抗議するデモが行われ、このプロジェクトの人件費の問題が浮き彫りとなった。
イスタンブール新空港は、黒海に面する沿岸に位置し、第1フェーズでは年間9,000万人の旅客者が利用する予定だ。同空港が10年後に全面完成し、本格的な稼働が始まれば、7,689万平方メートルの敷地面積を占め、6本の滑走路を有し、年間最大2億人もの旅客者の利用が見込まれている。これは、現在、世界最大の交通量を誇るアトランタのハーツフィールド・ジャクソン国際空港のほぼ2倍の規模に相当する。
10月25日、5つの企業からなるイスタンブール・グランド空港のコンソーシアム代表を務めるカドリ・サムスンル氏は、「この空港は、アジアとヨーロッパを結ぶ最も重要な拠点となるだろう」と記者団に対し語った。
イスタンブール新空港のインテリアは、トルコとイスラムの伝統的なデザインを採用し、そのチューリップ型の航空管制塔は、2016年のインターナショナルアーキテクチャーアワードを獲得している。また、同空港では、旅客者のためにモバイルアプリと人工知能を取り入れており、優れたエネルギー効率とハイテクを利用した堅牢なセキュリティシステムを誇っている。
トルコ共和国建国の指導者にちなんで命名されたムスタファ・ケマル・アタテュルク空港が12月末に閉鎖される時に、すべての航空機の運航がイスタンブール新空港に移管される予定だ。現在、年間6,400万人の旅客者がアタテュルク空港を利用している。そして、年間3,100万人の旅客者がトルコのアジア側に位置するサビハ・ギョクチェン国際空港を利用している。この空港は今後も操業を続ける予定だ。
エルドアン大統領は、トルコをグローバルなプレイヤーへと変革する構想の一環として、新空港の正式名称を発表しようと考えている。
ターキッシュエアラインズは、アンカラ、アンタルヤ、および、イズミールの3箇所の目的地に向けて新空港から離陸する初のフライトを計画している。また、同社は、キプロス北部のバクーおよびエルジャンに向かうフライトも計画している。
空港の建設に携わる労働者組合の代表を務めるニハト・デミール氏は、エルドアン大統領が指定した空港建設の工期に無理をしてでも間に合わせようとしたことが、36,000人を雇用している現場で多発した死傷事故の大きな原因となっていたと語る。
「この空港は墓場と化した」とデミール氏はAP通信に語った。そして、工事を早期に完了するプレッシャーが招いた「不注意、事故、そして死亡」は、容赦なく課せられた長時間労働のせいであるとした。
デヴュ・ヤピ・イズ労働組合は、工事現場で起きた37人の死亡事故の詳細を把握したが、他の100人以上の死者については詳細が不明のままであると訴えた。
トルコの労働省は、空港建設に伴い数百人が犠牲になったとするメディア各社の報道を否定し、現地で2月に27人の作業員が死亡した原因は「健康問題と交通事故」であると主張している。その後、労働省からこの件に関する新たな発表はない。
9月には、空港の従業員たちが、未払いの賃金、大量に発生している南京虫、安全性が確認できない食事、そして、空港への交通手段が不十分であることを含めた劣悪な労働環境に反対するストライキを開始した。治安部隊がストライキに参加していた数百人の従業員を取り押さえ、労働組合のリーダー格のメンバーたち30人近くを正式に逮捕した。空港を経営している会社は、労働環境の改善に努めていると述べた。
さらに、この空港建設に加え、イスタンブールのアジア側とヨーロッパ側を結ぶ第3の橋の建設、そして、エルドアン大統領が始めようとしているボスポラス海峡と並行して流れる人工運河の建設計画などのイスタンブール北部における巨大プロジェクトも環境に影響を及ぼしている。環境保護団体のノーザン・フォレスト・ディフェンスは、新空港の開港によって森林、湿地帯や海岸砂丘が破壊され、生物の多種多様性が脅威に晒されていると語る。
これらの建設プロジェクトは、既に1,500万人以上が住み、人口過多に陥っているイスタンブールに新しい交通網、住宅、ビジネスセンターなどをさらに建設する動きに拍車を掛ける事態となっている。空港の幹部であるサムスンル氏は、イノベーションとテクノロジーを標榜する「空港都市」も新たに建設する予定があると語った。
「一括事業請負後譲渡方式」の下で、2013年に290億ドルの資本を獲得したトルコの5つの企業は、その資本および銀行からの融資によってプロジェクトに資金を提供している。イスタンブール・グランド空港は今後25年間、新空港の経営を司る。
金融に精通する人々によると、この融資はトルコの成長と建設ブームの大部分を助長する一方で、トルコの民間企業には2,000億ドルという莫大な額の負債が残っているという。トルコではインフレが進み、失業率は2桁となっており、今年はドルに対する国内通貨の価値が40%も下落した状況を鑑み、経済学者たちは、トルコは明らかに景気の停滞に直面していると語る。
このようなトルコの空に低く立ち込める経済の暗雲にもかかわらず、空港のコンソーシアムは、巨額を投じた空港建設の見返りとして成長を続ける世界の航空業界が雇用と数十億ドルの両者を生み出すことを期待している。
サムスンル氏は、「イスタンブール新空港は、野心的にさらなる成長を求め続ける。そして我々は世界最大かつ最高の空港になるための課題を克服し続ける。それが我々のモットーだ」と述べた。
By ZEYNEP BILGINSOY and NEYRAN ELDEN, Associated Press
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