生まれ変わるデトロイト 財政破綻から5年、代償払いつつも着実に前進
デトロイト市は、数十年かけて徐々に衰退し、その落ち込みは5年前に底に達した。かつて、国内産業のエンジンとも言われた都市は財政力を失い、米国史上最大の自治体破産となった。
破産申請以降の財政再建には目を見張るものがあった。大々的な資本投下により雇用がもたらされた。半世紀前に最盛期を終えてしまったような地域コミュニティが復興し、また道路清掃や街灯が復旧した。サービス自体はごく基本的なことであるが、コミュニティ意識にとっては重要なことである。それはまた、一部の人々に負担を強いるものでもある。
ジーン・エステル(65歳)は、2004年に定年を迎えるまでのおよそ30年間、デトロイト市のレクリエーション局や公共事業局に勤務していた。彼女は他の退職者同様、債権者との合意に基づき、年金の一部と、退職者用健康保険の全てを失った。そして、デトロイトが再生した時には、取り残されてしまうのではないかと心配している。
「私たちが前よりも良くなっていることをうれしく思います。より良い生活になることを望んでいます」とエステルはデトロイト市について、このように話した。「けれども、いくらかの資金を得て、少なくともその一部を私たちに返済できるのは、どこか他の場所のようですね」
破産手続き以前は、彼女は毎月約2,300ドルを受け取っていた。現在、年金は63ドル減額され、そして、医療保険は自分で支払わなければいけない。処方薬にかかる自己負担金は、かつて3ドルであったが、今は、8種類ほどの常用薬の一部に対して25ドルを負担している。さらに、医師による診察にはそれ以上のお金がかかる。
「本来、診察を受けるべき頻度では通院していません。病気をしても耐え忍ぶのみです」と彼女は話す。
デトロイト市の5年前の状況を考えると、破産手続きの影響を受けた現在および元いた市役所職員を含む、およそ670,000人の市民にとって事態はさらに深刻だったかもしれない。こう話すのは、デトロイト郊外にあるマクテビア&アソシエイツの経営幹部であり、企業再生のエキスパートでもあるジェームズ・マクテビア氏である。
「財政問題の解決に向けて、デトロイトが破産裁判所に適用申請する前、市民たちは今よりもずっと深刻な状態にあった」マクテビア氏は述べる。「破産以前、市民には本来あるべき公共サービスが提供されていなかった。上下水道、ごみの収集、生活していく上で安心感を得ることができず、市民たちは大変な思いをしていた」
確かに、緊急事態管理官としてケビン・オール氏が州の任命を受け、2013年7月18日にデトロイト市について連邦破産法第9章(チャプターナイン)の適用を申請した際には、住宅街は約3年間も清掃されていなかった。また、1950年代からの100万人以上の人口流出が原因で空き家となった、数千もの廃墟は今にも崩れそうになっていた。
デトロイト市は、税収が減ったことで、2013年には、140億ドルの長期負債と3億2,700万ドルの財政赤字を抱えていた。警察官や消防署員を含む市役所職員たちは賃金がカットされ、企業の社員は無給休暇の取得を強いられた。
デトロイト市は、債務計画を再編し、70億ドルを削減したことで、2014年12月、破産手続きを完了した。同市は厳格な歳出計画に従うことを強いられた。さらに、バランスの取れた健全な財政を3年連続して計上し、その間にプラス収支を築くことが可能になった。
デトロイト市が財政監視対象から解除された数週間後の今春、ムーディーズ・インベスター・サービスは同市の信用格付けを格上げした。3年未満で3度目の格上げである。
「デトロイト市が財政再建して以降、市内では数十億ドルが投資されてきた」とマクテビア氏は話す。「かつてこの都市に投資することを恐れていた人びとが、デトロイトに投資することに対してとても熱心になった。現在のデトロイトを実際に訪れると、5年前とは全く別の都市になっていることに気づくでしょう。全く異なるイメージをもった、活気に満ちた街となった」
ミッドタウンで50年以上にわたって、鍵屋を家族で営んできたフレッド・キー・ショップでは、従業員たちが変化の様子を目の当たりにしてきた。フレッドの鍵屋は、1年前にできたプロのホッケーとバスケットボール競技場から数ブロックの場所にあり、商業・住宅用地域や歓楽街として計画されている区域である。
「私たちは以前よりも忙しいです」業務マネージャーのブライアン・クノッヘは話す。「多くの人たちがミッドタウンに越してきています。つまり、もっと仕事が増えるということでしょう。5年前には高級なレストランなんてありませんでした。この地域に多くの資金が入ってきているのは明らかだし、ニューヨークやLAから越してきている人も多くいます」
以前、デトロイト市で事業主として働いていたスティーブ・ブラウン氏にとって、このような好機は今の所感じられない。ブラウン氏(58歳)は、かつては15名の従業員を抱え、デトロイト市より道路修復の仕事を受注していた、と話す。現在、彼は父親の経営するトラック会社で働いている。
仕事の数や積荷の量は、市が破産手続きを開始した後に途絶えた。ブラウンは、解体工事の仕事に転職することを考えたが、設備を購入する時のローン申請がうまくいかなかった。「やりたい仕事を始めるのに十分な資金がなかった」と話した。
市内でも、ダウンタウンやミッドタウンなどの文化的な地域の中には、破産申請以前に上向きであった地区もあるが、破損の多い地域は問題を抱えていた。破産からの救済により、デトロイトは生活の質向上のために、より多額の投資が可能になった。道路清掃は昨年より再開され、数千本の新しい街灯も設置された。警察や救急医療隊員は911番に通報が入ると即座に駆け付けるようになった。
投資家により、数百棟ものアパートや分譲マンション、戸建て住宅がダウンタウン周辺に建てられている。市は、慈善事業や非営利団体と共に、古い住宅を修繕している。さらに改善される余地はまだある。
ブライトムア地域に住むアリス・ホーランドが話したことによると、作業員たちは空き地の伸びた草を刈ってはいくが、近所から不法投棄されたごみをきちんと撤去しないため、排水管がつまり、嵐の時には道路が冠水するという。
「私をみればわかるでしょう……自分のステッキを使って排水管を掃除しています」彼女は話す。「私はこの街が好きだし、今起きている状況を楽しんでいます。ダウンタウンをきれいにすることもいいけれど、隣近所の清掃もしてほしいものですね」
By COREY WILLIAMS, Associated Press
Translated by Mana Ishizuki