貿易戦争は米中どちらの得にもならない 求められる方向転換

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著:Damian TobinSOAS ロンドン大学東洋アフリカ学院、Lecturer in Chinese Business and Management)

 現在米中間で貿易摩擦が生じているが、両国の国際貿易が展開されることになったのは、米中関係が改善に向かい始めた1970年代初頭のことである。

 かつての中国は経済的孤立状態に陥っていたが、同国首脳陣は、国内ではハイテク業界に多く求められる技術を開発できないと悟った。それ以降、先進技術と強力なサプライチェーンを持つアメリカの企業が、中国経済の重要セクターに進出し、戦略の基盤を確立した。

 このことから、米中による貿易制限措置の応酬は、一種の目くらましに過ぎないということが示唆される。アメリカ(とEU諸国)は長きに渡り中国の事業運営体制に不満を表明しているが、それが貿易戦争のきっかけとなるようなことは到底ない。

 アメリカが求めているものは、ダイナミックな経済の回復である。その一方で、中国は近代化政策に必死だ。技術や知的財産への取り組みは重要だが、双方のニーズを満たす解決策とはならないだろう。それよりも、ずっと先送りにされてきたが、世界の貿易体制を見直すことが必要である。そうすることでしか、米中双方の求めるダイナミズムと成長を叶えることはできない。

◆経済制裁と技術
 米中の経済関係といえば、長きに渡り経済制裁を特徴としてきた。1950年、アメリカは朝鮮戦争の勃発を受け、企業に中国への石油の販売停止を命じた。中国はその後間もなく、スタンダード・バキューム・オイル・カンパニーやテキサス・カンパニーを始めとする米石油会社が所有する財産の押収に乗り出した。その後、1960年にソビエト連邦との関係が悪化すると、中国は次第に日本と欧州の企業に技術を求めるようになった。

 1972年、リチャード・ニクソン米大統領の訪中が、米中経済関係の転換点となった。中国にとって先進技術の利用可能性が限られていることは痛手であり、無駄な費用がかかることは明白だった。例えば、1960年代の中国では、石油化学製品の精製という高度な事業に用いる適切な技術が不足していたため、中国西部から原油を日本に輸送し、精製してから再度中国に輸入し直す必要があった。このようなことがあって中国は、大きな対価を払ったものの早い段階で、技術面で自立するための投資が必要であるという教訓を得た。

 アメリカ企業は、技術に対する中国の需要をすぐさま利用した。工学技術系企業ルーマス社は、1973年に北京燕山の石油精製所を皮切りとし、精製所に不可欠なエタノール精製技術を中国に供給し始めた。現在中国で精製されるエタノールとスチレンの約60%にルーマス社の技術が使用されているという事実を考えれば、ルーマス社が極めて重要な先進技術供給元であるということがわかる。

 アメリカ企業は、当然ながら現在も中国で大きな業績をあげ続けている。その業績がどれ程のものか正確な数値を得ることは難しいが、下の表を見てみると、中国で営業しているアメリカ企業の総資産利益率が、特に他地域の企業と比較するとどれほど高いものかわかる。

米国企業の各地域における総資産利益率、2000-2013 (Chart: The Conversation, Source: US Bureau of Economic Analysis)

◆中国の長期戦略
 中国もまた、近代化の面で長期に渡る戦略を展開し続けてきた。中国は1979年に経済開放政策を開始し、国家の近代化をより確実に推進するための原動力として、外国投資を積極的に受け入れた。

 中国の近代化は「四つの近代化」政策に端を発する。この政策は、中国の農業、工業、科学技術、国防の近代化を目指した長期プログラムである。「四つの近代化」政策は、1954年に周恩来が初めて発表した。しかし同政策の中心的な原則は、その後もずっと中国の様々な計画文書に登場する。

 最近のメイド・イン・チャイナ2025や、トランプ大統領が貿易制裁の標的とするイノベーションへの熱心な取り組みは、近代化政策を受け継いだものである。中国政府は今、製造業生産高のクオリティを劇的に向上すべく尽力している。

 しかしこのような近代化計画には、中国の成長モデルが抱える弱点が潜んでいる。世界金融危機を受け、外国直接投資(FDI)の経済成長への寄与率が低下している。通常、技術とノウハウの開発にはFDIが欠かせないということを考えると、これは深刻な問題だ。

GDPに対する中国への外国直接投資比率 (Chart: The Conversation Source: China’s State, Administration of Foreign Exchange)

 中国はまた、経済の開放を足掛かりにし、アメリカと対等な立場で戦えるような力をつけることもできなかった。中国には特に、貿易、投資、イノベーションの窓口となる大規模な超国籍企業が少ない。2016年に超国籍企業外国投資額トップ100に選出された会社は2社のみだった。アメリカからは22社がランクインしている。

 貿易制裁を受けなかったとしても、メイド・イン・チャイナ2025の掲げる目標の達成が困難であることは明らかだ。この戦略では、中国の平均的な労働生産性の伸び率を6.5~7.5%と想定している。しかし伸び率が停滞している状態では、目標の達成は難しいだろう。2016年の労働生産性の伸び率は6.5%程度だ。

◆市場の開放が双方の利益に繋がる
 上記の内容を踏まえると、中国がグローバリゼーションというアイデアを支持し続けているのは心強いことであり、中国が貿易の新たなガバナンス体制を求めてきたことにも納得できる。中国は2007~2008年の金融危機が終わると、同国の主要輸出市場において、保護主義への回帰を防ぐ上で大きな進歩を見せた。

 習国家主席は2017年ダボス会議で「中国には、中国元の価値を下げて貿易力を高めようという意図はなく、まして通貨戦争を引き起こそうなどという気は一切ない」と述べ、改めて保護主義を否定した。アジア諸国の首脳らにより最近開催されたボアオ・アジア・フォーラムにおいても、同様の主張を繰り返した。世界経済のガバナンス体制を刷新し、新たなダイナミクスを取り入れた国際経済を構築したいという習国家主席の悲願の裏には、中国が国際貿易で抱える真の課題がある。

 貿易摩擦が激化する中で明らかになったのは、米中どちらの成長モデルにも持続可能性が欠けているということだ。生産性が伸び悩む中国と、新たな経済のダイナミズムを至急必要とするアメリカは、新たな世界貿易システムの構築を進める中で、合意点を見出すことができるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

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