経済学者に学ぶ、「関税とはいったい何か?」

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◆関税の影響を分析する
 関税の影響は、関税を課す国の大小によって決まる。といっても、面積の大きさではなく、その国がどれほど貿易に対する効力を持っているか、そして国際価格への影響力を有しているか、ということだ。

 たとえば、ガーナの面積はミネソタ州と同程度で、人口はテキサスに並ぶほどだが、同国は世界最大のカカオ輸出国だ。一方、ニュージャージー州よりもやや小さいオランダは、カカオの最大輸入国だ。つまり、両国の貿易政策は国際市場におけるカカオの価格に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 つまり、もしオランダに小規模なカカオ豆栽培産業が生まれ(現段階では空想だが)、それを保護するために同国がガーナのカカオに関税を課すことになれば、主に3つの結果が生じることになる。

 第1に、オランダ国内で輸入品であるカカオの価格が上昇し、国内消費者の負担が大きくなる。これはオランダのショコラティエ(オランダは世界最大のココアバター輸出国)や、チョコレート好きの市民にとって、悪いニュースだ。しかし、国内の輸入競争産業の企業(ビニールハウスでカカオを育てる実験的なオランダの農家)にとっては良いニュースだ。彼らの製品が輸入品よりも安くなり、カカオバター製造者が国内品種をより多く購入してくれることになるからだ。

 第2に、関税を課す側の国が(カカオ貿易の)大国であるため、問題の品の輸出価格は下がることになる。つまり、ガーナがオランダに輸出するカカオの課税前価格が下がり、ガーナの栽培農家や生産者のもうけが減少し、同国の経済が痛手を負うことになる。経済学者はこれを課税側にとっての「交易条件(改善)の利益」と呼んでいる。このような関税が課せられても、オランダ国内のカカオ価格は、輸入税の総額ほど上昇することはまずないことが保証されている。

 最後に、商品の需要と供給が減少するため、関係国間の製品の貿易総量が減少する。

 ただ、関税賦課国が大国でない場合、もたらされる影響は2つしかない。商品の価格が上昇し(国内消費者の支払額が増える一方、生産者の売り上げが増える)、その国の該当商品の貿易量が減少する。これらの行動が国際価格に影響を与えることは、ない。

◆利益とコスト
「大きな」国では、関税のあらゆる恩恵が混在している。

 オランダのカカオバター生産者やおいしいダークチョコレートバーを楽しむ個人などの消費者は、価格上昇に直面するため、損をすることになる。しかし、保護された産業は競争力が高まり、販売量も増えるため、利益を得る。それに加えて、政府もまたあらたな収入源を手に入れるのだ。

 つまり正味の効果は、結果的な「効率損失」よりも貿易条件による利益が大きいか否か、で決まる。すなわち、関税によって、消費や生産量決定の形がどれほど人為的にネガティブな変化を遂げるのか、ということだ。

 貿易条件における利益が効率損失よりも大きければ、その国は関税の恩恵を受けることになり、そうでなければ損をする、ということだ。

 市場に影響を与えない小国では、貿易条件によって得られるものはないため、関税によって悪化することが明白だ。

◆関税の政治経済
 関税が大国にとって有利に働くケースもあるため、必要に応じて貿易相手国に「最適な関税」を課す必要性があるという説もある

 最適関税は交易条件による利益と効率損失の項の差を最大化するため、本質的に「近隣窮乏化貿易政策」である。

 言いかえれば、このような戦略的関税の問題は違法であることが多いだけでなく、他国と無関係に実行できるものでもない。不当な扱いを受けた貿易相手国が、相応の関税をかけるという報復措置といった貿易政策手段で対応してくる可能性が高い。

 このような報復行動を繰り返しているうちに、たやすく貿易戦争へ変わっていく恐れがある。それが貿易経済学者がこぞって制限のある保護貿易に賛成し、自由貿易に反対している理由の1つだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation