「成功している」日本経済から学べ 欧米メディアが注目するポイントとは
好景気が続き、株価も上昇傾向にある日本経済が、世界のメディアの注目を浴びつつある。もちろん、バブル期の「Japan as No. 1」のように日本独自のシステムを手放しで称賛するようなナイーブな論調ではなく、独自の視点に基づく冷静な分析が光る記事が多い。
◆高齢社会がもたらすインフレなき経済成長
ヨーロッパの放送局ユーロニュースは、日本の労働力人口一人当たり経済成長率が2%強と欧米をはるかに超える水準であることに注目している。2000年から現在にかけて、日本のGDP成長率は年換算で1%以下と先進国の中でも低い水準にとどまっているが、生産に寄与しない70代以上の世代が増え、労働力人口が毎年1%弱の割合で減少している状況に照らすと、むしろ成功であるとしている。
同局は、日本経済の「成功」の主な理由として、デフレにもかかわらず失業率が3%未満ときわめて低く、労働力人口の8割近くが職に就いている点を挙げ、さらに、日本と人口構成が類似し、日本同様に移民への抵抗感も根強いヨーロッパは、日本の経験から学ぶべきとしている。
さらに、高齢者は貯蓄を切り崩さない傾向にあるため、高齢社会では消費の促進によるインフレ誘導が難しい傾向にあるが、日本のようにインフレなき経済成長は可能であると説き、EUのインフレ目標政策の意義に疑問を呈している。一方、経済成長率が低い状況では財政赤字が累積し、公的債務が制御不能な水準にまで膨れ上がるリスクがあると指摘し、欧州が日本の二の轍を踏まないよう警鐘を鳴らしている。
◆非正規雇用や雇用の先行き不安がインフレを阻む
BBCは、アベノミクスについて功罪相半ばとの評価を下し、特に懸念すべき点として、三つの指摘をしている。まず、低失業率が賃金や家計消費の増加を招き、インフレをもたらすという図式が日本に当てはまらなかったのは、非正規労働者の割合が1994年の20.3%から2016年の37.5%へと大幅に上昇したためであるとし、さらには終身雇用神話が依然として見られることや、AIやオートメーションの普及による雇用喪失の危惧により、労働市場や賃金水準の硬直化が生じている点を指摘している。
さらには、高齢社会の到来により、高齢者関連支出の大幅増が見込まれる中で、定年の引上げなどにより高齢者の就業を促進した点や、デフレによる経済鈍化や債務負担の拡大に対する懸念が存在する点も挙げている。景気の好転を日本の庶民が実感できない一因には労働分配率の大幅な低下があると考えられるが、非正規雇用の増加に着目したこの論考には一定の妥当性があるだろう。
◆競争力を取り戻した日本の製造業
一方でブルームバーグ・ビューのコラムニスト、マイケル・シューマン氏は、日本国内における製造業の復権に注目している。GDPに占める製造業の割合は安定し、製造業に従事する労働者の割合も増加している。また、昨年10月における日本経済全体の賃金上昇率は前年同月比で0.6%増であったが、製造業については1%となっている。
この要因として、シューマン氏は円安や金融緩和政策に加え、製造業の国際競争力が3年前の世界第10位から第4位へと躍進したとする2016年の調査を引用し、日本の製造セクターが競争力を増していると結論づけている。本調査は、製造拠点を低コストの新興諸国へ移転することにより中国などの新興国が潤う状況が続いてきたのに対し、現在はテクノロジーや人材が競争力の源泉となりつつあり、R&Dに長年投資を続けてきた先進国、とりわけ日本に有利な状況が生まれているとしている。さらには日本の人材をドイツに次いで世界二位と位置づけ、製造プロセスの改善に向けた投資を行っていることも高く評価している。
シューマン氏は、日本を範として、他の先進国は教育訓練の重要性を学び、新興諸国は技術革新や労働生産性の向上を重視するべきであるとしているが、一方では日本の低失業率に関連して労働力不足の現状を指摘し、移民を制限することによる負の影響について警鐘を鳴らしている。本記事においても人的要素が重要であるという認識で共通しており、今後は「人」に一層の焦点を当てた経済政策が望まれる。