失業は健康に悪いのに、不況は体に良い?

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◆考え得る説明
 不況時のように、経済活動が停滞しているときには路上に車や商用車が減るため、交通事故による死者が減少することは長く知られている。しかし、不況時の死亡率増減パターンを完全に説明するには、全体に占める自動車事故死亡者の割合が小さすぎる。

 他の研究によると、仕事時間が減ることで、個人が運動するようになる、また医療機関を受診する頻度が高くなる、など積極的な健康行動をとるようになる可能性があるという。

 不況になれば労働時間が短くなり仕事量や残業も減るため、多くの場合仕事が少なくなる。仕事が少し減ることで、幾分恩恵があることは間違いない。しかし、だからといって収入につながる仕事がない、ということがまた非常にストレスフルだという事実は変わらない。

 最後に、不況下のように生産活動が減少する期間は環境汚染も少なくなるため、呼吸関連の健康問題や死亡者数が減少することは考えられる

このような、不況と死亡率との驚くべき関係についての説明には1つ制限がある。それは、高齢者の死亡パターンを適切に説明できているものがない、ということだ。なぜなら、多くの死は、むろん、高齢者において見られるため、死亡率の大半を占める高齢者に対する説明が必要だ。

◆微妙な違い、重要な研究結果
 これが、最後の説明につながる。それは、我々は他者の雇用機会と選択が、我々の生活の質に対してどんな役割を果たすのか、ということを真っ向から考えさせられるものだ。

 私が同僚とともに調べたところによると、失業率が低い時期には、介護士や保健師などの直接的な保険医療従事者の雇用が減少することがわかった。そういった仕事は心身への負担が大きく、低賃金で、離職率の高い仕事であることが多い

 労働者は、景気が良く、他に選択肢がある場合は、そちらを選ぶ。

 その結果、失業率が低い時期には、養護施設に一流の介護スタッフが揃う、という可能性ははるかに低い。経済状況が悪いほうがスタッフの訓練が行き届き、離職率も下がるのかもしれない。我々の研究は、この状況と死亡率を結びつける。失業率に相関する死亡数の大部分を養護施設の高齢者が占めるからだ。好景気時には人手不足が深刻になることがある、というのも、まさにこの考え方が当てはまる。不況時には、医療スタッフの雇用と維持が楽になることから、医療の質が向上し、死亡率が下がるのかもしれない。

 これは、我々自身の幸福にとって仕事は重要である、というだけでなく、他者の仕事や労働状況からも、時には驚くべきかたちで影響を受けることの、有力な実例だ。

 レイバーデイは、アメリカの労働者の貢献を祝福するものであり、労働市場の混乱が個人の生活や健康に大きな影響を及ぼす可能性があることを我々に思い出させる日であるべきだ。景気のいい時には負担の大きい職業が人手不足になる。別の、より良い選択肢に流れた結果だとしても、それを悪い知らせだと受け取る人もいるのだ。

This article was orginally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation