「日本全体の信頼を損なう」神鋼改ざん、海外は一連の不祥事と絡め報道
今月8日、鉄鋼大手の神戸製鋼のアルミ・銅製品などで検査データが改ざんされていたことが明らかになった。タカタのエアバッグの大規模リコールに始まり、日産自動車の検査不備問題など、このところ日本企業の品質管理を巡るスキャンダルが相次いでいる。今回の神戸製鋼の問題は、それらにダメ押しした形だ。主要海外メディアは、日本の製造業全体の信頼が失われつつあると警鐘を鳴らしている。
◆日本全体の信頼低下を招く
ロイターは、タカタ、日産の不祥事と共に三菱自動車の燃費不正問題、東芝の粉飾決算スキャンダルを挙げ、「長年高品質な製品で世界をリードしてきた日本企業の評判をさらに傷つけた」と、神戸製鋼の発表に対するアナリストの見方を示している。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、旭化成建材の杭打ちデータの偽装問題にも触れ、やはり日本の製造業全体の信頼が損なわれつつあると指摘している。
経済産業省も国全体の問題として問題を深刻に受け止めているようだ。ロイターは、同省鉄鋼担当トップの「これらの一連の不正行為は、フェアトレードの根本を揺るがしかねない。神戸製鋼には、最低限社会の信頼を取り戻す努力をしてほしい」という発言を取り上げている。
神戸製鋼は、アルミニウムや銅製品の一部で強度や寸法を偽って出荷していたと発表した。2016年9月から2017年8月に出荷された製品が該当し、世界中で稼働している自動車・新幹線・航空機などの部品に使用されているという。その後、防衛装備品にも問題の製品が使われている可能性も浮上。鉄粉でも同様の改ざんが行われていた疑いも持たれている。
◆安全性への強い懸念
折しも、衆議院総選挙で有権者の審判を受けているアベノミクスへの悪影響も懸念されている。ロイターは、「アベノミクスの一環としてコーポレート・ガバナンスを向上させようと動いてきた安倍晋三首相の自信を挫くかもしれない」と指摘。同メディアに答えた識者は、「ここ数年を振り返ると、海外の投資家たちは日本株をアベノミクスへの期待から買ってきた。しかし、その“3本の矢”の1つである成長戦略は機能していない」と、不正を重ねる大手メーカーがアベノミクスの足を引っ張っている現状を分析する。
安全性への影響は未知数だ。神戸製鋼は、ロイターの取材に対し、「我々の知る限りでは、現段階で顧客の製品への影響はない」と答えている。同社の部品を使っている米航空機大手ボーイング社も「今のところ安全への影響があるという結論は出ていない」としている。ただ、その具体的な根拠は示されていない。FTは、「神戸製鋼は、出荷された製品に具体的にどのような問題があるのかないのか、何の情報も出していない」と不信感を露わにしている。
問題の神戸製鋼製のアルミ・銅を使用しているメーカーには、トヨタ、ホンダ、マツダ、スバル、JR東海、三菱重工、ボーイングなどが挙げられている。いずれも自動車・鉄道・航空機のパネルや重要部品に用いられているとされ、安全性への影響が懸念される。さらに、ミサイルや戦車といった防衛装備品にも用いられているというから、懸念は安全保障の分野にも広がっている。
◆背景に鉄鋼部門低迷の焦りか?
ブルームバーグは、問題の影響の大きさを「これは、一般には見えにくいBtoBの検査の問題だけにとどまらない」と表現する。さらに、「自動車や航空機を構造的に支える金属部品の欠陥は、安全性を危険にさらす恐れがある。そのため、神戸製鋼は日本の製造業全体の信頼を損なうリスクを犯した」と批判する。
そのような大きなリスクを犯してまで、なぜ不正に走ったのか? ブルームバーグは、近年、日本の鉄鋼メーカーでは大手同士の統合が進んでおり、神戸製鋼はその流れの中で「弱小から消えゆくプレイヤーになりつつある」と指摘。ライバルにない建設機械などの多角経営が強みではあるが、最大手の新日鉄住金やJFEホールディングスなどに挟まれて焦りがあったのではないかと分析している。その中で、利益率が低い鉄鋼に比べて、高収益が期待できるアルミと銅で起死回生を図ろうと不正に手を染めた可能性に言及している。
日本経済を長年支えてきたのは、世界からの品質への信頼だ。主要海外メディアが一斉にそこに疑念を抱く中、株価への広範囲な悪影響の可能性も指摘されている。一連の不祥事を起こした企業の責任は重い。