列車離れのインド、「新幹線」は認識を変えられるか 「在来線を優先して」との声も
14日にインドで高速鉄道の起工式が行われた。日本からも安倍首相が出席するなど、日印の協力関係を象徴するプロジェクトになっている。欧米各紙も客観的な立場で日本の貢献を伝えているが、高速鉄道の売り込み合戦では中国が世界的に一歩リードしているとの見方もあるようだ。
◆日印の連携を深めるプロジェクト
AP通信によると安倍首相は起工式に出席しただけでなく、4000人にも上る高速鉄道の職員を養成する訓練施設を見学するなど、プロジェクトに相当な熱意を見せているようだ。計画の大部分は0.1%という超低金利の日本側からの融資で実現するなど、日本の存在感は大きい。
BBCによると、500kmに及ぶ全区間の旅程が現在の8時間から3時間にまで短縮するとのことで、インド側でもプロジェクトは歓迎されている。2022年8月の開業までまだ少し時間はあるものの、快適な移動と沿線経済圏の活性化をもたらす高速鉄道への期待は強いようだ。
ガーディアン紙(9月14日)はインドのナレンドラ・モディ首相による期待の声を伝えている。「これが新しいインドであり、その夢は無限大です。高速鉄道のプロジェクトはスピードと雇用をもたらします。人間に優しく、環境にも優しいのです」と語っており、新幹線の高度な技術を通じて日印両国の関係は急速に深まっている。
◆ライバル中国の存在を海外紙は指摘 中国は日本の動きを意外にも歓迎?
インドでの日本方式採用には、日印両国の中国とのやや緊張した関係が影響している。BBCでは日印がどちらも中国との領土紛争を抱えており、アジア地域での中国の影響拡大を恐れたことから、互いに緊密な関係になったと分析する。
こうして日印はアジアアフリカ成長回廊を共催する動きになったが、フォーブス誌は手厳しく、成長回廊は中国の一帯一路の「図々しいパクリ」とまで表現している。中国はすでにラオス、インドネシア、タイで高速鉄道輸出の実績を作りつつあり、アジア・ヨーロッパ・アフリカを結ぶ一帯一路を推進する中で、今後も中国の高速鉄道の規格が幅を利かせると見ているようだ。
しかし同誌では、今回の高速鉄道計画について、意外にも中国側が歓迎しているとも報じている。中国としてはインド国内で高速鉄道をさらに拡充する機運が高まるのを待ち、中国方式の列車で他の路線を開設する思惑だと記事では分析しているようだ。技術に定評のある日本の新幹線技術だが、輸出競争では中国優勢と見る海外メディアもあるようだ。
◆安全性で巻き返しを図る日本 インドで多発する事故も世論に影響
一方、当のインド国内では、高速鉄道の建設よりも既存路線の安全性向上を優先すべきとの声が一部にある。ガーディアン誌によると2015年に列車事故に関連して死亡した人の数は3万3700人に上るという。こうした安全性に対する懸念から、人々の列車離れさえ起きているようだ。BBCでも既存路線の老朽化や頻繁な事故の発生に触れ、高速列車でなく古い施設の更新に予算を割くべきとの声を取り上げている。
安全性を高めることは急務だが、安全性を最優先に設計された日本の新幹線方式だからこそ、インドの状況を改善することも期待できるだろう。フォーブス誌は、インド鉄道のアドバイザによる中国への皮肉とも取れるコメントを紹介している。2011年に中国で起きた2台の高速鉄道車両の衝突事故を念頭に、中国製のものより「事故の歴史のない」日本の新幹線を選ぶと発言しているようだ。台頭する新興国を巻き込み、高速鉄道の輸出競争はますます過熱することになるのかもしれない。