アマゾンが世界を不況にする? 日本の脱デフレを阻んでいるという見方も
インターネット販売店が従来の実店舗型の販売店としのぎを削る価格競争を展開しているが、この価格競争が労働者の賃金の伸び悩み、物価上昇率の低下を引き起こすディスインフレを加速させてインフレを抑制しているという見解が聞かれるようになった。この、景気上昇の新たな敵としては、「アマゾン」の名前が挙がっている。
◆ ネットからリアルに参入。アマゾンに政治家と経済学者は戦々恐々
アマゾンはご存知のようにネット小売業の最大手だが、今回、米国の高級自然食料品大手であるホールフーズを買収。実店舗を持つ小売業にも本格的に攻め入ってきた。
この買収のニュースが伝えられた2日後、シカゴ連邦準備銀行の総裁チャールズ・L・エヴァンス氏はニュース専門放送局のCNBCとのインタビューで、「大きな企業の買収・合併はインフレに対してマイナスの影響を与える」としてインフレを進める政策を以前にも増して強める必要があると答えた。エヴァンス氏は企業名については触れなかったものの、アマゾンをインフレキラーとして名指ししたようなものだ。
また、同じくCNBCは、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリスト、マイケル・ハートネット氏のコメントも紹介している。ハーネット氏は、アマゾンのような企業がある限り、労働者の賃金は増えないと指摘する。従来では費用が掛かっていたサービスや品物を低価で提供するような「アマゾン化(Amazonification)」が進めばインフレは抑制され、その結果、賃金の伸びも抑えられるという見解だ。
◆日本の脱デフレの夢もアマゾンが潰した?
インフレを目指しながらも、到達に四苦八苦している国はほかにもある。日本だ。日本は長い間の不景気に悩み、安倍首相は「2%~3%のインフレターゲット」「量的緩和の拡大」「デフレ脱却」を掲げて再登板。やっとデフレから脱却する光が見えてきたかと思ったところに、アマゾンがやってきた、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は7月18日付のワールドニュースで書いている。日本がデフレから脱却できない原因の一つに、オンラインとオフラインの小売業による価格競争があるというのだ。同紙は、流通大手イオンの代表執行役社長である岡田元也氏が4月の決算会見でコメントした「脱デフレは大いなるイリュージョンだった」との言葉を紹介し、価格競争の厳しさを伝えている。
この2日後、日本銀行は予想インフレ率を1.4%から1.1%に下方修正。2019年までに2%台のターゲットに到達するにはやや厳しい数字で、到達目標を2020年3月と1年、伸ばしている。日程が延期されたのは、現在の黒田総裁となってから6度目のことだ。
◆絡み合ったデフレの原因
しかし、アマゾンを悪者にするシナリオに反対の声も挙がっている。デフレの理由は沢山あり、アマゾンだけに焦点を当てる考え方には納得できないとする記事をフォーブス誌に寄稿したのは、投資会社を経営するアダム・サーハン氏だ。
サーハン氏は2008年からインフレを抑制してきた原因を見ていくと食品とエネルギーにあり、アマゾンはそのどちらにも関わっていないとしている。もちろん、アマゾンなどの企業はマーケットに大きな影響を与えているが、それは過去にも行われてきた通常の価格競争の一つの形であり、歴史的に見ても価格競争がインフレーションを抑制した実例はないと訴える。サーハン氏は、本当の原因はもっといくつかの状況が絡まりあったものだとしている。
誰がインフレを妨げているのか、脱デフレがどうして出来ないのか、その理由が分からず思い通りにならないとき、目立つ新参者に罪を擦り付けるのは簡単だ。しかし、そのようなBlame Gameから抜け出すことが今、一番必要なことである。スパゲッティのように絡まりあったインフレの本当のキラーを見つけて対応するには、まだまだ時間がかかりそうだ。