東南アジアへの武器輸出拡大へ 国内2回目の国際防衛装備見本市でアピール
今月12日から14日まで、千葉県の幕張メッセで海の防衛装備の見本市「MAST Asia 2017 海上防衛技術国際会議/展示会」が開かれていたことをご存知だろうか? 平和憲法がある日本では非常にデリケートな問題を含む武器輸出が絡むだけに、国内のマスメディアはほとんど開催を報じていない。15日朝の時点でGoogleの検索上位に引っかかるのは、“死の商人”を非難する市民団体が会場前で抗議活動を行ったというフリージャーナリストの記事のみだ。一方、武器輸出の話題がタブー視されていない海外メディアは、特に遠慮することなくMAST Asiaの日本開催を取り上げている。
日本は2014 年の武器輸出三原則緩和後、土壇場で敗北したオーストラリアへの潜水艦受注レースをはじめ、既にアジア太平洋地域の武器輸出市場にデビューしている。MAST Asiaの開催を報じる海外メディアの記事の中では、今は特に東南アジア諸国への輸出拡大に熱心だという論調が目立っている。
◆東南アジア諸国の代表を防衛セミナーに招待
MAST Asiaは、イギリスに拠点を置く民間企業「MASTコミュニケーションズ」が2006年から毎年主催する防衛見本市で、2015年に初めてヨーロッパ諸国とアメリカを飛び出し、日本(横浜)で開催された。昨年はオランダで開かれたが、今年再び日本での開催となった。MAST Asia 2017実行委員会は、日本で初めて開催された2015年度は、「他の年度に比較すると大幅に参加者等が増加した」「内容も非常に充実していたとの評価が得られ、欧米諸国代表から再度(日本)開催を期待する声が多く寄せられた」と、その理由を説明している。
MAST Asia 2017を取り上げる海外メディアは、日本は今、特に東南アジア諸国への武器輸出拡大に熱心だと報じている。ロイターは「安倍政権は、東南アジアで拡大する中国の影響力に対抗して、武器の輸出と軍事的技術提携を外交の新たな柱にしようとしている」、APも「中国と北朝鮮との緊張の高まりを受け、日本は東南アジア諸国への防衛装備輸出を拡大しようとしている」と書く。これらの記事は、シンガポールの「ザ・ストレイツ・タイムズ」などの東南アジアのメディアにも掲載されている。
これらの報道の背景には、渡辺秀明防衛装備庁長官が、会場で海外メディアに対し、東南アジア諸国の軍関係者を対象にした政府主催のセミナーを個別に開くことを明かしたことと関係がありそうだ。APは、渡辺長官の発言を受け、セミナーは「防衛装備と技術の提携について話し合う会合」だとし、ロイターは2つのソースから得た情報として「日本の防衛省は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの軍の代表をそれぞれ個別の軍事技術セミナーに招待した」としている。セミナーはMAST Asia終了直後の15日に開催されるといい、これに招待することにより、東南アジア諸国代表団に確実にMAST Asiaに参加してもらう狙いもあったと、事情通は語っている(ロイター)。
◆韓国の専門家も日本の軍事技術に期待
MAST Asiaには、米ロッキード・マーティン、仏タレス・グループなど海外の巨大軍需企業も多数参加している。一方、日本企業にとって初の防衛装備見本市となった2015年度は、NECのみが単独参加。他の日本企業は合同の出展にとどまった。ロイターは「軍国主義と見られることを恐れて自社の防衛関連製品を宣伝することを躊躇した」と、日本企業の及び腰ぶりを表現する。
しかし、今回は、前回の開催により多少は“免罪符”が出たと感じたのか、三菱重工、川崎重工、新明和工業といったトップ企業を含む16社が単独参加。誘導ミサイル駆逐艦、試作水陸両用車、機雷探査技術などの展示・デモンストレーションが行われた。ただし、相変わらず自社の製品と戦争を結びつけることはタブーのようで、三菱重工の広報は「イベントに参加することにより、我が社の幅広い製品と技術をお披露目したい」という、当たり障りのないコメントをロイターに寄せている。APも「イージス艦や戦闘機のメーカーである三菱重工も、すぐにビジネスが拡大するとは考えていない。日本の防衛装備の輸出は、防災や平和維持活動にフォーカスしているからだ」と書く。
渡辺防衛装備庁長官は、「日本の高品質な防衛装備と研究開発力は、日本と世界の平和維持に貢献する」と言葉を選びながらも、日本の武器輸出拡大戦略を会場の海外メディアにアピールした。この発言を伝えたAPは、「アジア諸国には第2次世界大戦の苦い記憶から、日本の武器輸出には抵抗感が残る」としながら、会場に来ていた韓国の防衛専門家の「我々は北朝鮮の深刻な脅威にさらされている。日本は隣国だ。日韓が共通の利益と防衛上のポリシーを持つ以上、防衛装備と情報の共有という面で、軍事的な協力を排除する理由はない」というコメントを紹介。潮目が変わってきていることを示唆している。
◆前途多難な状況は変わらず
今後、日本の武器輸出は政府の期待通りに拡大していくのだろうか? オーストラリア・アデレード大学アジア研究学部のプルネンドラ・ジャイン教授は、米ナショナル・インタレスト誌に寄せた記事で、前途多難だという見解を示している。
日本は、オーストラア海軍の次期主力潜水艦に、海上自衛隊で採用されている「そうりゅう」型を推した。当初はほぼ採用決定と報じられたこともあったにもかかわらず、昨年4月、豪政府はライバルの一つだったフランス案を採用したと発表。日本の敗北が決定的となった。インドへはUS-2救難飛行艇を売り込んでいるが、コストなどの問題が解決できず、暗礁に乗り上げた状態だ。これについては、「ほぼ終わった」と報じる海外メディアもある。
これまでに事実上の武器輸出が成立したのは、これらのビッグ・ビジネスではなく、円借款の形で行われたベトナムとフィリピンへの巡視船と練習機の供与のみだ。新たにニュージーランドとタイへの偵察機と輸送機の売り込みが始まっているが、欧米の有力メーカーも参戦しており、先行きは厳しいと見られている。
ジャイン教授は、日本の苦戦の理由は「コスト」と「経験不足」だとしている。シンガポールのシンクタンクの専門家も「東南アジアで真に唯一、問題となるのはコストだ」とロイターに語っている。コスト面で強いのは中国だ。既に安価な武器をどんどん東南アジア諸国に投じており、南シナ海での東南アジア諸国との対立とは裏腹に、武器輸出の面では影響力を強めているのが現状だ。ジャイン教授は、「日本がオーストラリアで見せた競争力のなさとインドでの交渉の停滞は、日本政府の経験不足と、魅力的な値付け・交渉術の面で戦略のなさを見せつけた。日本の道のりは遠い」と述べている。