同じ味ばかりのラガービールに飽きた? アジアでクラフトビールの人気が上昇中
小規模、昔ながらの醸造法、独自性にこだわるクラフトビールが、アジアの国々で注目を浴びている。海外から輸入されたものに加え、地元の材料を使って伝統的なスタイルにアクセントを加えた個性的なビールも続々と登場。市場自体はまだまだ小さいが、大手メーカーが大量生産で作る同じ味のビールに飽きた消費者を取り込み、今後大きく成長することが期待されている。
◆世界一のビール市場、中国。クラフトビールも急成長
全米に75店舗を構えるクラフトビール・バー、「World of Beer」は、上海に海外初のフランチャイズを開いた。同店では41種類のドラフトビール、300種類の瓶ビールを提供しており、駐在員や地元の客でにぎわっているという。消費者のトレンドは、大量生産の大手メーカーのものから、洗練されたクラフトビールに移行していると同店のスタッフは話す。中国でのクラフトビールのシェアは、ビール市場全体のわずか1%ほどだが、年間のセールスは4億ドル(約440億円)になるという(日経アジアンレビュー)。
クラフトビールは、消費者だけでなく製造者の方にも魅力的だ。中国は量では世界一のビール市場だが、大衆向けの一般的なビールの価格は3元(約50円)で、製造者の利益は少ない。一方で、上海や北京で売られているクラフトビールの平均的な価格は1本4.5ドル(約500円)であることから、地元のみならず海外の大手メーカーの参入も始まっている(同上)。
◆ラガーオンリーは終わり。大衆向けから多様な味へ
クラフトビールブームはアジア各国で起きており、その理由のひとつに、消費者が従来のビールに飽きたことが上げられる。これまでアジアで人気だったビールのほとんどは軽くて口当たりもマイルド、ゴールデンカラーが特徴の「ラガー」ビールだった。世界的に有名なカールスバーグ、バドワイザー、ミラーなどはすべてそうであるし、日本、韓国、中国の大手のビールも同様だ。
サウスチャイナ・モーニングポスト紙(SCMP)は、イギリス人ジャーナリストがあるコラムで、「韓国のビールはひどい。北朝鮮のビールの方がまし」と書いたことが大論争を巻き起こした数年前の事件を取り上げている。これについて韓国でクラフトビールを製造するTK・キム氏は、韓国人はラガータイプに慣れており、「エール」や「ランビック」といった他のスタイルのビールに馴染みがなかったと指摘する。ビール会社は大衆受けするラガーばかり作り、その結果、韓国のビールが皆同じ味になってしまったのではないか、と同紙に述べている。日経アジアンレビューの取材を受けた中国人グラフィックデザイナーも、従来のラガーには味に多様性がないと指摘しており、新しい味が楽しめるクラフトビールを飲み始め、もう大衆向けビールには満足できないと答えている。
◆地元の材料が個性に。アジアならではのクラフトビールに期待
ラガーに飽きたアジアでは、伝統のスタイルに地元の材料でアクセントを加えた新しいクラフトビールが登場している。アジア・タイムズによれば、香港では、労働者の食堂で人気のライムソーダをヒントに、ドイツスタイルのビールにライムの塩漬けをミックスしたビールや、ジャスミン、菊、キンモクセイの香りを付けたビールが作られている。ベトナムでは、ジャスミンを加えたインディアン・ペールエール、パッションフルーツの香りを放つウィートエールが、韓国では漢方からヒントを得た薬草を使ったサマーエールなどが飲めるということだ。
日本のクラフトビールも負けてはいない。日経アジアンレビューによれば、日本のクラフトビール最大手のヤッホーブルーイングは、昨年、台湾のセブンイレブンで試験販売を実施。セールスが好調だったことから、台湾のセブンイレブン全店への製品供給を今年末までに開始する予定だという。醸造ユニットの責任者、森田正文氏によれば、台湾での日本製への信頼感が高いこと、製品のパッケージデザインがユニークなことが人気の理由だという。同社は台湾のビールメーカーと協力し、日本のゆずや台湾のかんきつ類を使用したビールを開発する予定だ。将来は、日台コラボの味が、日本で楽しめる日も来るかもしれない。