プレミアムフライデー成功の鍵はやはり労働生産性の向上 ビジネスビジョンの見直しを
先月4月28日の金曜日に3回目のプレミアムフライデーを迎えた。GW(ゴールデンウィーク)前でもあり、15時に退社して旅行などに出発し、GWの貴重な1日目を移動時間に費やさないですんだ方もいるだろう。大型連休前の夜の食事や飲み会も、これまで以上にお金を使ったかもしれない。2月はプレミアムフライデーの初回、2回目の3月は年度末と重なったせいもあり、経済効果はまだ限定的でこれからとの見方もある。今回、3回目を迎えたことを機にプレミアムフライデーについて考えてみたい。
◆経済効果ありと取れる発表
プレミアムフライデー推進協議会が行なった「2月24日金曜日プレミアムフライデー実態調査(全国20~50代正規・非正規有職者のインターネット調査)」によると、実際に早く帰宅した人は調査対象者の17%で、使ったお金の平均額は10,082円、前月の実施前の1月の月末金曜日に比べ20%ほど高い水準になった。また同推進協議会事務局への登録企業は4,512社で、宿泊業・飲食業、卸小売業、サービス業が7割近くを占めるが、この内の27%がプレミアムフライデーで売上が増えたと回答している。参加した雇用者の立場の回答者からは「勤務する会社の経営層の意識改革」が重要との声も聞かれた。
しかし3月末の2度目のプレミアムフライデーは年度末と重なり、帰りたくても帰れない雰囲気の職場も多かったようだ。給料日あとの消費を狙ってプレミアムフライデーは月末の金曜日に設定されているが、月末は納期や精算に追われ定時退社すら難しいケースもある。しわ寄せを受ける部署もあるとの声も聞かれた。
そんななか、制度を独自に応用する企業も現れている。ソフトバンク・テクノロジーでは、3月以降のプレミアムフライデーの実施日を、月末の金曜日以外も対象にすることを発表した。同社の実施スケジュールによると、たとえば6月の月末金曜日は本来30日なのだが23日に前倒しされる。ソフトバンク・テクノロジーは従業員960名の大企業だが、世の中の従業者の7割ほどが勤める中小企業ほど、人手不足の問題から月末を避けたほうが実施率も高くなり、経済効果も大きいかもしれない。プレミアムフライデーは政府と経済界が提唱するキャンペーンである。多くの企業が足並みをそろえたほうが、サービスを提供する飲食業などでもそれに合わせた割引特典などを準備しやすのかもしれない。しかし自社の実情に即して取り組んだほうが従業員の満足度は高まるだろう。プレミアムフライデーを機に、働き方や休み方について考え直す企業も出てくるのではないだろうか。
◆経済効果以外に目を向けてみると
BBCでは「プレミアムフライデーは自殺予防に効果的か」という見出しで、過労死や長時間労働による社員の自殺について取り上げ、2015年には2,310の家族が過労死について賠償を求めていると述べ、プレミアムフライデーが成功するかどうか他の国でも注視していると結んでいる。
ガーディアン紙では、やはり過労死やワークライフバランスに触れ、ホンダやサントリー、森永では導入に動いているものの、多くの企業は消極的という見方を示している。日本経済新聞の調査結果を引用し、大手155企業のうち、45%が直近の導入計画はないとしており、カルチャー・コンビニエンス・クラブが会員1,603名に行った調査では、回答者の勤務先でプレミアムフライデーを導入していると回答したのはわずか3.4%であった。また経済効果については、プレミアムフライデーによる消費拡大は63億円以上を見込めるとのSMBC日興証券の試算があるが、専門家によっては、残業代の減少により消費はそれほど高まらないという見方がある点もつけ加えている。労働を減らすことに抵抗を感じる経営者と、労働時間の多寡に収入が連動してしまう日本の労働者という根本的な問題を指摘している。
◆日本人の労働生産性
たしかにこの問題は、日本人の労働生産性にいき着くのではないだろうか。タイム誌が今年4月、OECDのデータから国別の労働者の生産性のランキングを発表した。1位はルクセンブルグで労働者1人の労働1時間当たりのGDPは93.4ドル、2位はアイルランド、3位はノルウェー、4位がベルギーで、5位がアメリカ(68.3ドル)となる。フランスが7位、ドイツが8位、イギリスが15位で、日本は20位(41.9ドル)。他国と比較するとアメリカの61%、ドイツの63%、イギリスの80%という生産性になってしまう。なお労働者当たりの週平均労働時間は、アメリカが33.6時間、ドイツが26.3時間、イギリスが31.9時間、日本が33.1時間で、ドイツを除けば大きな開きがあるとは言えない。それでもこのOECDの数値を過去からさかのぼると、日本の労働者の生産性は近年上昇してきているのである。依然埋められないこの差はどこからきているのだろうか。
◆生産性を再定義しないかぎり、収入も余暇も期待できない
生産性というと100個の仕事を1時間当たりでどれだけ処理できるかという見方がわかりやすい。問題は、その100個の仕事の中身、端的にいえば売上規模だ。10万円の仕事と100万円の仕事では、同じように効率化に取り組んでも、1人当たりの生産性(金額)は大きく異なってしまう。縮小しているマーケットと拡大しているマーケットでビジネスの効率化に取り組んだときの差とも言い換えられる。
同じレベルで1時間当たり50%処理できたとしたら、収入も休みも期待できるのは10万円の仕事ではなく100万円の仕事ではないだろうか。労働生産性というと「無駄のない仕事」「時間内に完了する」などが美徳のように語られ、働き方改革の目標もそこに置かれているように思える。しかし、取り組んでいる仕事がお金にならないのなら、効率化を図っても得るものは少ない。サービス残業がなくならない理由とも関係していそうだ。
これはつまり効率化以前のビジョンや戦略・戦術の差であって、プレミアムフライデーを進めるには、目指すマーケットやビジネスについて再考するところからはじめると効果的かもしれない。
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