味噌カツ丼1杯分だけ? わずかな賃上げに海外メディアが皮肉

 15日、今年の主要企業のベア(ベースアップ、基本給の水準の底上げ)の額が回答されたが、ほとんどが2014年にベアが復活して以来最小の引き上げ額となっている。アベノミクスのもと、安倍首相が旗振り役となって企業に賃上げを促した「官製春闘」も、4年目を迎え勢いを失いつつある。その一方で、パートタイムの賃金は上昇しており、人手不足の影響が顕著に現れた形だ。

◆政府は景気回復を期待
 金融情報サイト『マーケットウォッチ』は、安倍政権は、保護された正規と低賃金と不安定に苦しむ非正規という二つの労働市場が日本に存在することは好ましくないとし、正規非正規にかかわらず経済成長のため大企業に賃上げを呼びかけている、と伝える。ロイターも、安倍首相は消費や投資を増やし、経済の好循環を生む健全な賃金上昇を求めており、日銀も賃上げが物価上昇を起こし、デフレの脱却につながることを期待していると説明している。

◆ささやかなベア。日本企業は財布のひもが固い
 しかし、政府の期待通りに行くかどうかは疑問視されている。日本の春闘における賃上げは企業心理のバロメーターであり、消費の後押しになるかどうかの指標だとするロイターは、今年の賃上げでは不十分だと見る。産業界のリーダーでもあるトヨタ自動車の回答は、労組の要求の半分以下の月額1300円で、昨年の1500円を下回った。トヨタの中堅技術者が月額36万円を稼ぐと仮定すると、増加分はわずか0.36%だ。ロイターは、1300円などトヨタ本社に近い名古屋の名物「味噌カツ丼」を1杯注文すればなくなってしまう、という表現をしている。

 日本企業が賃上げに消極的なのは、莫大な内部留保を抱えているものの、景気の見通し、為替の変動、トランプ政権下でのアメリカの貿易政策変更の可能性などを気にしているからだと指摘されている。複数のアナリストは、今年の大手のベア率は平均0.3%程度になるとみている(ロイター)。

 フィナンシャル・タイムズ紙は、2016年は円高で利益が減少、国内的にはインフレ率もゼロ以下に滑り落ち、日本企業にとっては厳しい年だったとやや同情的だ。しかし、トランプ大統領誕生後、円安に向かったことも指摘し、春闘の数字はまだまだ日本の賃金決定が後ろ向きであることを示唆している、と述べている。

◆働き手がいない。労働力確保に賃上げ必至
 正社員の賃金上昇がわずかなのに比べ、非正規労働者の賃金は上昇している。マーケットウォッチは、1月のパート労働者の時給は、昨年に比べ2.6%上昇したと述べ、原因は少子化による人手不足だと指摘する。今の日本の企業にとって、人手不足を解消するには、非正規労働者を雇うほうが都合がいい。終身雇用が慣例である正社員を解雇することは困難なため、景気が悪化すれば解雇しやすい非正規労働者のほうが先のリスクが少ないからだ。そのため日本企業は賃金を上げてでも、非正規労働者を確保しようとしている、と同サイトは説明する。

 これに対し、ものづくり産業労働組合の安河内賢弘副会長は、大企業はむしろ非正規社員を正社員に迎えることで人手不足に対応していると話し、中小企業はそれができないため、賃金を上げることで労働力の維持を目指す、と説明している(FT)。

 雇用する上で、企業は長時間労働根絶という政府の計画も考慮しなければならないとFTは述べるが、同じ給料で労働時間が減るので間接的な賃上げにつながるものの、さらなる人手不足を引き起こしかねないと指摘する。ヤマト運輸の例を上げ、人手不足から宅配便の運送料金の全面的な値上げを提案せざるを得ない場合もあるとし、労働力不足が企業活動の深刻な妨げとなっていることを懸念している。

※本文中「同じ給料で労働時間が増えるので間接的な賃上げ」は「同じ給料で労働時間が減るので間接的な賃上げ」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。(3/17)

Text by 山川 真智子